最近話題が多い宇宙関連ビジネス
2016年12月1日、PDエアロスペース(非上場)、エイチ・アイ・エス(9603)、ANAホールディングス(9202)の3社は、宇宙輸送の事業化に向けて資本提携を行ったと発表しました。今後、この3社はPDエアロスペースが開発中の完全再使用型弾道宇宙往還機を利用し、2023年を目処に宇宙旅行の事業化に取り組む考えです。
ちなみに、想定される運航開始時の1人当たりの料金は約1,400万円で、将来的には欧州旅行並みにしたいということです。超富裕層でなくても頑張れば宇宙に行ける時代がすぐそこに来ていることを印象付けるニュースでした。
一方、2016年12月2日付け日本経済新聞は、キヤノン(7751)の連結子会社であるキヤノン電子(7739)がIHI(7013)とともに「宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛けるミニロケットの開発に参画」すると報じています。
ミニロケットは、従来のタイプに比べ大幅な小型・軽量・低コスト化が可能になる見込みです。そのため、衛星写真の撮影コストも大幅に削減することが可能になり、農業など民生分野への活用が期待されています。
宇宙関連2法案が成立
このように、宇宙を身近に感じさせるニュースが相次いでいます。この背景にあるのは、政府による宇宙ビジネスの環境整備への積極的な取り組みです。その一例が11月に成立した以下の宇宙関連2法案です。
1.宇宙活動法
JAXA中心に国が担っていた法制度を改め、民間企業がロケット打ち上げや商業衛星の運用などの宇宙開発関連ビジネスに参入しやすい環境をつくることを狙った法律です。
ロケット打ち上げのための地上設備など関連事業はすべて許可制が導入され、安全確保のための事前審査も行われるようになります。また、事故が発生し被害が出た場合に備えて損害賠償保険に加入することを許可した事業者に求め、保険の賠償金額を超える損害が発生した場合は国が一定の責任を分担することになりました。
2.衛星リモートセンシング法
解像度の高い画像データがテロなどに悪用されないように、画質の制約や提供先を限定することなどが定められています。
一見すると規制強化のような印象がありますが、これまではこうした法律がないことで民間はどこまでできるか、できないかの判断が困難だったということに留意すべきです。こうした法律ができることで、民間が活動可能な範囲がより明確になるため、冒頭に述べたような民間の参入例が今後さらに増えると期待されます。
日本の宇宙ビジネスの出遅れトレンドの変化に注目したい
さて、その宇宙ビジネスですが、その範囲は、①宇宙機器産業(ロケット、衛星、地上局などの衛星機器等)、②衛星通信・放送サービス、③宇宙関連民生機器(GPS受信機、カーナビなど)、④宇宙利用産業(高精度測量ビジネス、衛星データ利用ビジネス等)と多岐にわたり、市場規模は世界で20兆円程度、うち日本は6兆円程度です。
また、上記の分類のうち宇宙機器産業に限れば米国は約5兆円、日本は約3,000億円となっています。ただ、米国市場が長期にわたってほぼ右肩上がりで成長してきたのとは対照的に、日本市場は90年代半ばにピークを付けた後は2000年代に入り低迷が続いており、未だにピークレベルまで回復していません(2015年時点、出所:日本航空宇宙産業協会)。
このように日米で大きな開きが見られるのは、法整備の遅れなどで日本は民間の参入が出遅れていたことも一因と考えられます。そのため、今回の宇宙関連2法案をきっかけに出遅れ感が修正されてくるのかが大いに注目されます。
なお、宇宙関連の銘柄に関してご興味をお持ちの方は、個人投資家向け金融経済メディアLongine(ロンジン)のレポート『飛翔を期す日本の宇宙機器産業の投資 注目ポイントを整理する【Longine投資テーマ50】』をご参照ください。
和泉 美治