OPECの原油減産合意は、原料を石油に依存する化学産業、とりわけ総合化学メーカーの業績にどう影響し、株価はどう動くでしょうか。想定されるシナリオに基づいて考えてみました。

OPEC減産合意で原油価格はどうなる?

11月30日にウィーンで開催されたOPEC総会で、実に8年振りの減産合意が実現しました。これまで激しい利害衝突が目立ったサウジアラビアとイランの両国が歩み寄り、2017年1月から加盟国全体で日量120万バレルの減産を行う方針です。

財政ひっ迫が続くサウジアラビアは50万バレル減産で日量1,000万バレルに、イランは増産凍結で同380万バレルを維持する決着となったようです。この結果、このところ45ドル(1バレルあたり、以下同)前後で推移してきた原油先物相場は、10月に記録した50ドル手前の水準まで上昇しました。

OPECは先の総会で中期的な価格目標を60~65ドルとしています。ただ、上昇が続けば米国のシェールオイル油田のリグ稼働率が上がり、価格上昇には一定のキャップがかかるという見方が有力です。

シェールオイルの採算点は当初50~60ドルと見られていましたが、大手企業への集中と生産性改善によって40~50ドルまで低下しています。これによって米国からの輸出攻勢が強まることで、原油価格の上昇にも限界があると見られます。

石油化学原料のナフサ価格もジリ高傾向に

プラスチック、合成繊維、合成ゴムなどでできた身の回りの生活関連用品は、原油から精製されたナフサ(粗製ガソリン)や天然ガスを原料に生産されています。

国内の石油化学各社(総合化学)は、石油コンビナートに石油化学の基礎製品であるエチレンを生産するプラントを有し、隣接する石油精製メーカー(出光興産、JXホールディングス等)からナフサを原料として調達します。

この調達価格は円/キロリットルで仕切られ、ほぼ各社とも四半期ごとに価格交渉を行うことになっています。

当然のことですが、ナフサ価格は原油相場とほぼ連動します。2015年(暦年)での国産ナフサ価格は46,000円/キロリットルでした。それに対して、2016年1~3月は34,000円/同、4~6月は31,900円/同、7~9月は31,000円/同で推移しました。

これが、総合化学各社の業績に原料安による収益改善効果をもたらしたことは記憶に新しいところです。原油市況は今年2月に大底を記録しましたが、国産ナフサ価格は1四半期遅れで安値を記録しており、四半期後ずれで動くと考えられます。

ちなみに10~12月は34,000円/同と7~9月から8%強上昇する可能性が高いと見られています。円安もトランプ効果で思わぬ方向に向かっていますので、年明けの国産ナフサ価格の動向が気になるところです。

では、今後の原油市況は、1)急騰、2)穏やかに上昇、3)現状の水準を維持、4)急落のうちどれに向かうでしょうか。世界経済は米国を軸に緩やかに回復基調を強めそうですので、原油市況の急騰・急落は考えにくく、同時に横ばいが続くこともなく、穏やかに上昇するシナリオが妥当だと思われます。

石油化学事業の収益モメンタムが最大化する瞬間に株価は天井を打つ

では、総合化学各社の石油化学事業の収益はどのように見たらよいのでしょうか。今年7~9月の国産ナフサ価格を大底に、原料安効果は徐々に薄れていくでしょう。他方、化学製品の価格は、現在のタイトなエチレン需給を考慮すると値上げが順調に浸透するでしょう。

製品価格の是正が直ちに実現する一方、原料コスト上昇は原価計算上緩やかに進むと考えると、製品価格と原料コストのスプレッド(差額)は、“一定期間”利益を押し上げる可能性が出てきます。この瞬間が「収益モメンタム」が高まるタイミングとなるでしょう。

注:ナフサとエチレンのスプレッドについて詳しくは『石油化学株、“ボトムフィッシング“のタイミングはいつ?』もご参照ください。

今の原油市況動向から考えて、総合化学各社は年明けから製品価格是正のアナウンスを始めると思われます。よって、2017年春に向かって原油市況が50~55ドル/バレルへと徐々に上昇するタイミングでスプレッドはかなり拡大すると思われます。

そのため、2017年3月期Q3~Q4(10~3月期)決算の業績は飛躍的に良くなることが見込まれます。したがって、株価は決算が発表される5月上旬辺りにピークを付ける可能性が高いかもしれません。なぜならば、決算時にアナリストが一斉に“買い”と叫ぶ可能性があるからです。

 

石原 耕一