中小企業の倒産件数が「バブル景気のころ並み」な理由

年末が近づいてきました。東京商工リサーチや帝国データバンクなどの調査会社などでは、定期的に企業の倒産件数を発表しています。2016年度はまだ上半期のものしか発表されていませんが、両社が取りまとめた倒産集計ではいずれも全国の倒産件数は最近、大きく減っています。

その数は「バブル景気のころ並みの少なさ」と言われるほどです。と言っても、バブル景気のころほどの力強さは感じないという人が多いのではないでしょうか。特に中小企業では逆に、年々厳しさを増しているように見えます。

さほど景気がよくなっているようでもないのに、倒産件数が少なくなっている背景には、金融機関が中小企業のリスケ(借り入れ条件)の変更に応じていることがあります。

リーマンショックの影響による中小企業の倒産を防ぐために、2009年12月、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)」が施行されました。同法は13年3月末に期限を迎えましたが、金融庁はその後も「金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべき」としており、金融機関もそれに従っています。

中小企業金融円滑化法を利用している企業は全国に30万社から40万社あると言われています。つまり、倒産件数の少なさはこれらの中小企業が「延命」されているだけと見ることもできるのです。

ちなみに「倒産」は法律用語ではありません。東京商工リサーチでは「企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態を指す」としています。

ポイントは「債務」です。ざっくりと言えば、借りたお金を返せなくなるのが倒産です。なので、何年も赤字が続いている企業でも、貸している側(金融機関など)が「返してください」と言わなければいつまでも倒産しません。

「黒字倒産」の原因は損益計算書とキャッシュフローのギャップ

「黒字倒産」という言葉もあります。損益計算書上では黒字の状態にもかかわらず、債務の返済ができずに倒産することです。「勘定合って銭足らず」という表現もあります。

利益が出ているのに資金が足りないと言うと「売掛金の回収までの資金繰りの問題なのか」と考える人がいるかもしれません。それであれば、銀行も待ってくれるはずです。なぜ銀行は待ってくれないのか。それは黒字倒産する企業の多くが、損益計算書上では黒字でも、実際のキャッシュフローが回っていないからです。

たとえばポイントの一つが商品の在庫です。損益計算書では、仕入れにかかった費用は商品が売れたときに計上します(なので、売上原価と言います)。ところが、実際のビジネスでは、仕入れた商品は売れようが売れまいが、買ったとき(あるいは一定の期日後)に代金を支払わなければなりません。

2000年代後半、中堅の不動産デベロッパーが数多く黒字倒産しました。その原因の多くが在庫を抱えすぎていたことでした。銀行から借り入れをして土地や建物を仕入れたにもかかわらず、開発した物件が売れず、大量の在庫となっていました。

損益計算書では売れた分の原価と利益しかわかりません。売れていない分の仕入れ代金や借入金などが巨額になっているにもかかわらず、それを満たす売り上げがなかったのです。

「勘定合って銭足らず」となる例がほかにあります。減価償却費です。設備、建物などを購入した際は減価償却費を計上できます。これと諸経費などを引いて損益計算上プラスになれば黒字ですが、購入の際に借入を行った場合の元金の返済が減価償却費を上回ると、利益が出ているのにもかかわらず、資金が不足するという状態になります。

企業経営者などが「勘定合って銭足らず」を防ぐためには、損益計算書でだけでなく、将来にわたるキャッシュフロー計算書もチェックすることが大切です。

 

下原 一晃