しかし、すべての自動車メーカーが減産を強いられるのであれば、ライバルに客を奪われる心配はありません。それ以上に「自動車の需要が自動車の供給を上回るので、自動車の価格が上昇する」ということが期待されるのです。

自動車の価格も、当然ながら需要と供給の一致するところに決まります。自動車の場合、表面的な定価は変化しなくても、販売現場での値引きが減るなどの動きは当然予想されるでしょう。

これは、「全社一斉に減産して自動車の値段を吊り上げよう」というカルテルと同様の効果だと言えるでしょう。しかも、カルテルより遥かに望ましいのです。

「カルテル破り」が出てこない

通常のカルテルであれば、独占禁止法違反に問われかねませんが、今回はカルテルそのものではないので公正取引委員会に叱られませんし、マスコミや消費者のバッシングも受けません。むしろ、部品不足を嘆いて見せれば「消費者の同情を得ながら値上げができる」といったことも期待できるかもしれません。

もうひとつ、「カルテル破り」が出てこないことも、業界各社にとって非常に嬉しいことなのです。

通常のカルテルの場合、カルテルを維持するのは、容易なことではありません。各社にカルテル破りをするインセンティブがあるからです。

同業他社がカルテルを守っているとすれば、自動車価格は高止まりをしているはずなので、自社だけがカルテルを破ってわずかな値下げをすれば、容易にライバルから顧客を奪って大儲けをすることが可能だからです。

しかし今回は、自社も減産に追い込まれているので、値下げしてライバルから客を奪ってこようというインセンティブを持つメーカーがないのです。したがって、高値が続き、自動車メーカーにとって大きな追い風となるかもしれません。