本記事の3つのポイント
- インテルがファンドリー事業への本格参入を表明。200億ドルを投じてアリゾナ州に新工場を2棟新設
- 20年の半導体ランキングで世界トップを堅持したが、微細化競争では台湾TSMCに遅れを取っている
- 欧米各国では韓国や台湾に依存する半導体生産に対して、自国内生産を増やす動きが出ており、こうした政治的な動きを味方につけようとする向きも
最近、半導体業界を震撼させた出来事の1つがインテルのファンドリービジネスへの本格参入だ。今年3月、新任CEOのパット・ゲルシンガー氏が米アリゾナ州チャンドラーに12インチ工場2棟を新設するなどとともに、ファンドリー事業戦略「IDM2.0」を立ち上げて正式に事業化するとアナウンスした。4月には自動車用半導体不足の解消に向け、ファブレス企業と協力して生産・供給していくことも明らかにしている。
ファンドリー市場は2025年に現在の約1.5倍に相当する1000億ドルに達する予測で、ビジネスチャンスは極めて大きい。一方で、TSMC、サムスン電子といった強大なライバルもいる。果たしてインテルのファンドリービジネスは成功するか。
20年トップ堅持も課題
インテルの20年売上高は前年比8%増の778億6700万ドル。世界半導体ランキングでは19年に引き続きトップを堅持した(以下、サムスン、TSMC、SKハイニクス、マイクロンと続く)。そんなインテルだが、現在2つの課題に直面している。
1つがライバルAMDの急浮上だ。AMDの20年売上高は同45%増の97億6300万ドルと絶好調だった。製品別でもデスクトップ・ノートPC用MPU・GPU、サーバー用MPU、セミカスタムSoCなどすべての製品群でプラス成長となった。
これに対し、インテルはデスクトップ・ノートPC用MPUで前年比8%増となった反面、データセンター、IoT、AI、自動運転といったサーバー関連を中心とするデータセントリック事業は同8%減と落ち込んだ。そして同年はAMDが一般販売向けのPC用MPUに続き、サーバー用MPUでもインテルからシェアを奪ったことも指摘されている。
もう1つが周知のように最先端プロセスの導入遅れだ。大きくつまずいたのが16年に導入予定だった10nmノード(開発コード:Ice Lake)で、3年後の19年にようやく導入を果たした。これに対し、TSMCに生産委託するAMDは同年に7nmに対応したPC用MPUを製品化している。アップル、クアルコムなども同様だ。
その7nmについてインテルは21年から導入する計画だったが、20年に半年以上遅延すると発表。一方で、このほどゲルシンガー氏は7nmに対応したクライアントPC用MPU「Meteor Lake」を21年にテープインし、23年に出荷(テープアウト)すると言及した。加えて、EUVを採用することも決定した。
なお、TSMCは19年までに7nmおよび7nm+(EUV採用)、20年に5nmおよび6nmを導入済みで、今後21年に5nm+(同)、22年に3nmを導入していく計画だ。
先端プロセスは生産委託
こうしたなか発表されたのが、インテルのファンドリービジネスへの本格参入だ。実際、これまでも小規模のファンドリーは行っていたが、ビジネスとして本格的に立ち上げるのは今回が初めてとなる。
IDM2.0の骨子は、①内部製造ネットワークの活用、②外部ファンドリーの利用、③外部へのファンドリーサービスの提供の3つだ。
①は従来どおりのもので、大部分のチップは自社で製造していく。
②は最先端チップを外部に生産委託するものだ。MPUの7nmおよびディスクリートGPUの6nmはTSMCに委託する見通しだ。
生産委託する背景として、インテルの先端プロセス技術が十分に確立されていない点が大きい。10nmは製品化されているものの、依然、歩留まりが高くない。そのため、14nmに注力せざるを得ない。
事実、今年3月に発表したデスクトップPC向けMPU「第11世代 Core S」(Rocket Lake-S)は14nmを採用している。20年9月に10nmに対応した第11世代Coreを発表しているにもかかわらずだ。前進するどころか後退した感は否めない。従って、7nmが本格採用されるのはまだ先となる。
ファンドリー部門を立ち上げ
③は新たなビジネス部門「Intel Foundry Services(IFS)」を立ち上げ、最先端プロセス技術とパッケージング技術を外部顧客に提供していくもの。ゲルシンガー氏は「x86、ARM、RISC-V基盤のIPを構築し、差別化製品を提供する」と述べている。すでにグーグル、マイクロソフト、クアルコム、アマゾンなどからの支持を得ているとしている。
また、主に欧米市場をターゲットに掲げていることも明かした。その理由としてサムスン、TSMC、UMCといった最先端ファンドリーの80%が東アジアに集中していること、半導体需要が欧米で活発化していることを挙げている。
新工場2棟に200億ドル投資
インテルのファンドリービジネスのカギとなるのが、チャンドラーに新設する2本の12インチ工場だ。7nmを採用し、24年にも稼働を開始する計画だ。投資額は200億ドル(約2兆1600億円)で、これはインテルの20年設備投資額143億ドル(約1兆5000億円)を上回る。
なお、同プロジェクトに向けて同州とバイデン政権がインセンティブを提供する見込みだ。具体的には、米国の半導体製造や研究などを支援する法案「CHIPS for America Act」による連邦助成金が含まれる。
ビジネスは成功するか
半導体王者、インテルのファンドリービジネスへの本格参入は業界から大いに注目されている。他方、ビジネスが成功するかどうかも問われている。
最も懸念されるのは、競合他社が生産委託に躊躇する可能性がある点だ。当然と言えば当然で、競合他社としてはチップの設計内容は見られたくない。この点、TSMCやUMCといった専業メーカーは安心して委託できるし、また、このため専業ファンドリーは成功した。
加えて、指摘されるのが設計を短縮・効率化できるIPやライブラリーといった設計資産、回路ブロックを十分に保有しているかだ。TSMCは自社工場で製造しても機能する自社またはパートナー企業による実証済みのIPやライブラリーを数多く保有する。こうしたIPやライブラリーの構築には数年かかるとも言われる。
高度な技術力で差別化
一方で、インテルの技術的な強みも顕著だ。例えば、同社は10nmがTSMCの7nmと同等以上の性能を発揮するとしている。インテルは第11世代Coreの最上位モデル「Core i7-1185G7」と、AMDの7nmによる「Ryzen 7 4800U」のベンチマークを実施し、演算性能で28%、グラフィックス性能で67%、ディープラーニング性能で4倍それぞれ高かったとしている。オフィス、クリエイティブ、ゲーム、ネットなどの各種アプリケーションでも上回る性能を発揮したという。
加えて、パッケージング技術でも差別化を図っていく。先述のMeteor Lakeは、20年6月に製品化した「Lake Field」の延長線上にある。Lake Fieldは複数のチップを平面配置したロジック層、DRAM層、基板層などの各層をPOP(Package On Package)により積層するものだ。技術的な詳細は不明だが、Meteor Lakeでもデザインルールの異なるMPUダイやGPUダイなどを3次元的に積層していくとみられる。
このほか、先述の連邦助成金のような財務的なバックアップも期待できることから、ビジネスは比較的に盤石とみられる。
調査会社TrendForceによると、21年1~3月期におけるファンドリーメーカートップ15社の売上高合計は前年同期比20%増の225億9000万ドル。トップ5はTSMC、サムスン、UMC、グローバルファウンドリーズ、SMICとなっている。今後、インテルもこうしたランキングに名を連ねることになるのか。
電子デバイス産業新聞 編集部 東哲也
まとめにかえて
3月に行われた投資家向けイベントで新たな経営方針を示したインテル。先端プロセスに対する自社での取り組みと同時に、ファンドリー事業への注力も大きな話題を集めました。過去にもファンドリー事業拡大を掲げた時期もありましたが、大きな成果を出せなかった経緯があります。その当時と比べてTSMCとの技術ギャップはより一層開いた印象です。ファンドリー事業拡大の道筋はまだはっきりと見えてきていないのが実情です。
電子デバイス産業新聞