なぜ「老後2000万円」なのか

ではここで、冒頭で触れた「老後2000万円問題」にお話を戻します。

果たして老後生活は「貯金2000万円」で本当乗り切れるのか、ちょっと疑問に思っていらっしゃる方も多いでしょう。ここで、この「2000万円」という金額の根拠についてお話ししていきましょう。

まず、この金額は「夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯」をモデルケースとして試算されているものです。

夫婦が定年後の30年間を生きる場合、ひと月の平均収入は20万9198円・支出は26万3718円、よって、毎月約5万5000円の赤字が発生する、とされています。

これが30年間続くと、月5万5000円×360カ月(30年)=1980万円。つまり約2000万円になる、という計算になるわけです。

これが「老後資金2000万円」の根拠となります。ただし、あくまでもモデルケースによる概算から導き出された金額である点には注意が必要です。

「老後2000万円」の落とし穴

この「老後2000万円」の根拠、そして内訳については、何点か留意点があります。

「サラリーマン世帯」がモデルケース

まず、この金額は厚生年金を受給中のサラリーマン世帯がモデルケースになっている、という点です。(「年金収入月額が約19万円」であることから判断)。

国民年金のみを受給する自営業世帯であれば夫婦合算の月の年金受給額は約11万円(平均)となりますので、毎月の赤字は5~6万円どころでは済まない、と考えるほうが現実的であるといえるでしょう。

住居費・介護費は上乗せで準備が必要となる可能性が

また、支出の内訳のうち、住まいと介護にかかるお金についても留意が必要です。

【住居費】

この試算では、住居費が約1万4000円で計算されています。これは「持ち家」であることを前提に計算されたものです。老後も賃貸物件に住み続ける場合は、家賃にあてるための上乗せ貯蓄が、2000万円以外に必要となります。

【介護費用】

介護が必要となった場合にかかる費用も、この2000万円には含まれていません。

公的介護保険を利用する場合は、サービス利用料は1~3割負担に軽減されます。ただし、要介護状態に応じて区分が設けられており、在宅の場合の支給限度額や施設の場合の保険給付額が決まってきます。区分によって1カ月あたりの利用限度額が定められていて、限度額を超えた分は自己負担となります。

また、仮に有料老人ホームに入居する場合、数百万円以上の入居費用が必要となることが考えられます。更に月々の費用がかかる場合がほとんどです。

老後にかかるお金がどのくらいかは、住まいや健康状態、さらには家族構成といったさまざまな要因の影響を受けるものであるといえるでしょう。

特に健康状態については、年を重ねると予測不可能な変化が起こる可能性も高くなります。

「備えあれば、憂いなし」

万が一のときに、安心して治療や介護を受けることができるよう、できる限りの準備をしておきたいですね。