米国大統領選から約1週間が経過し、日米ともに株式市場は活況で、「トランプラリー」の様相を深めています。今回は、限られた情報だけからトランプノミクス(トランプ新政権の経済政策)を議論するのではなく、全体を俯瞰して考えるために、以下の3つの記事を選びました。

相場の転換点は実は7月だった

日本でも2012年末の政権交代を契機に「アベノミクス相場」が始まったことは記憶に新しいところですが、政権交代は、時として大相場をもたらすことが多いため、決して今起きている変化を軽視するべきではないでしょう。

とはいえ、現時点ではトランプノミクスの全容は明らかになっておらず、憶測から“いいとこ取り”だけをした分析記事も散見されます。それだけを頼りにすると、いつの間にか梯子を外されるリスクもあるため、時にはトランプノミクスを離れて相場を考えることも重要ではないかと思われます。

そうした観点で注目したいのがこの記事です。非常に興味深いのは、米国やドイツの長期金利の上昇が、実は今年の7月から始まっていたという事実が指摘されていることです。今回の米大統領選後、米国の長期金利は大きく上昇しましたが、冷静に見つめると、本当の意味での転換点はその数か月前から起きていたのです。

このことを踏まえると、足元の株高や円安が、意外に長続きする可能性も想定されるのではないでしょうか。

出所: 転換点なのか?(急上昇する米国長期金利)(アセットマネジメントOne)

保護主義への対抗策は内需刺激策

次は、中国の消費に関連する記事からトランプラリーを考えたいと思います。

多くの人が漠然と抱えているトランプ新政権に対する懸念は保護主義の高まりですが、この記事では実際にそうした動きが発動された場合、具体的には中国から米国への輸出品に多額の関税が課せられるような事態になった場合には、中国当局は小型自動車減税の延長といった国内需要の下支え策(消費刺激策)を行う可能性があると示唆されています。

そうなれば、日本も同様に、米国の歓心を買うため一段と内需刺激策を新政権へのお土産として提示することも考えられます。皮肉なことに、米国での保護主義の高まりは貿易相手国の景気刺激策を誘発するということになり、それが株高要因になる可能性も考えられるのです。

出所:中国小売売上高、健闘はしているが重い面も(ピクテ投信投資顧問)

日本の名目GDP600兆円達成への議論が年末にかけて高まる?

最後は、日本のGDPに関する記事からトランプラリーの今後を考えたいと思います。ちなみに「日本のGDPは成長するのか?」という直球の問いかけは、日本株の今後を考えるうえで外せない議論です。この記事の注目ポイントは、以下の2点です。

第1は、11月14日に発表された2016年7-9月期の実質GDP成長率は、前期比年率+2.2%と3四半期連続のプラスとなり、市場予想を上回っていた点です。プラス成長への寄与の大半は、円高にもかかわらず外需(純輸出)が伸びたことにあります。消費や設備投資が弱いのはやや気掛かりですが、プラス成長が続いていると確認されたことは株式市場には好材料であると考えられます。

第2は、12月8日に発表されるGDP速報値から、GDPの集計にこれまでカウントされていなかった「研究・開発」への支出が設備投資に含まれるようになると正式に決まったことです。内閣府によると、この変更により名目GDPは約20兆円増えると試算されており、よって2016年年間の名目GDPは520兆円程度に達する可能性が高いとのことです。

では、なぜこの20兆円の変化が重要なのでしょうか。それは、政府が2020年頃までに達成を目指している名目GDP600兆円への距離が、今回の変更で80兆円にまで縮小するからです。つまり、“全く実現不可能なターゲット”から、“もしかしたら達成できるかもしれないターゲット”になることが期待されるというわけです。

こうした変化により、改めて日本の成長戦略に関する政策議論が活発化し、そのことが株式市場の刺激材料になることも想定されます。今年は忙しい年末となりそうです。

出所:7-9月期の日本のGDPは、外需持ち直し、内需低迷(アセットマネジメントOne)

 

LIMO編集部