2020年下期から値上がりし始めた液晶パネルだが、価格の上昇がいまだに止まらない。旺盛な需要が継続していることに加え、世界的な半導体の需給逼迫や、ガラス基板メーカーでの相次ぐ事故、台湾の水不足問題などが顕在化し、液晶パネルの供給不安をあおる要素が後を絶たない。当初は、21年下期にはパネル価格が下落に転じると見る向きが強かったが、部材の供給状況によっては高値が想定より長続きするかもしれない。

高値継続がFPD各社の業績拡大を牽引

 テレビ用の32インチ液晶パネルの価格は、20年5月に30ドル台前半まで下落したが、世界的な巣ごもり消費やリモートワーク、遠隔教育などの普及で、テレビやパソコン、タブレットといった液晶搭載製品の需要が伸び、6月以降は上昇に転じた。21年2月に70ドルを突破し、3月はさらに上昇ペースが上がって80ドル近辺に達している。

 テレビ用に加えてIT用の値上がりも加速しており、21年1~3月期の価格動向について台湾の大手FPD(Flat Panel Display)メーカーであるAUO(友達光電)とInnolux(群創光電)はともに1桁後半の上昇を見込んでいたが、引き続き強気の見方を崩していない。これがFPD各社の業績アップを牽引することになり、21年上期のFPD各社の利益率は過去最高の水準に達する可能性がある。

液晶の需要は引き続き旺盛

 需要も旺盛だ。Innoluxは2月に開催した事業説明会で「コロナ禍でIT需要が高まったことで液晶はまだ不足しており、21年も好調が続く見込み。20年に出たChromebook向けの液晶パネル需要の7割は21年に繰り越されたとみており、21年も2桁成長が期待できる」と語った。

 また、このほど調査会社OMDIAは、車載用液晶パネルの20年10~12月期の出荷実績を発表。出荷台数は20年7~9月期比19%増の4300万台となり、コロナ前の19年10~12月期の出荷実績をも4%上回ったと報告した。21年上期は、パンデミック前の19年よりも高い需要が予想されるが、液晶パネルの出荷に対してドライバーICなど半導体不足の悪影響が懸念されると述べた。

部材不足が供給量の増加に律速

 実際、ドライバーICをはじめとする半導体の供給は逼迫している。ドライバーICメーカーの多くは「ファブレス」と呼ばれる自社工場を持たない企業で、設計だけを手がけており、ICの製造を「ファンドリー」と呼ばれる半導体の受託製造専業メーカーに委託している。

 だが、世界的な半導体需要の増加で、ファンドリー自体の生産能力が不足しており、工場稼働率はフルに近い状態が続き、増産余地がほとんどない。ドライバーICは単価が安いためファンドリーが積極的に生産したがらないという問題もあり、ドライバーIC大手の台湾Himaxは生産能力に関して「ファンドリーの生産能力不足で成長が抑制されており、21年に入ってからは組立やテストなどにまで不足が深刻化している」と述べている。

 また、20年秋のCorning合肥工場、日本電気硝子の滋賀高月事業場での事故に続き、21年1月末にAGCファインテクノ韓国でも事故が発生したことで、今後の液晶パネル用ガラス基板の供給量を不安視する向きも強く、これらも価格上昇要因の1つになっている。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏