これが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「褐炭水素プロジェクト」で、事業主体は川崎重工業、卸電気事業を行う電源開発、水素供給技術を持つ岩谷産業、エネルギー・石油化学のシェルジャパンによる「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」です。

世界初となる川崎重工業の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」も完成し、今年、オーストラリアからの液化水素輸送の実証実験が開始される予定です。

製鉄でも水素を利用

水素は意外なところにも利用されています。鉄鋼業界のCO2排出量は日本全体の14%と突出して多いのですが、理由は鉄の作り方にあります。

鉄鉱石中の鉄は酸化された酸化鉄で、コークス(炭素)を使って鉄鉱石から酸素を奪えば(還元)鉄ができ、CO2が発生します。したがってCO2削減のためには、製鉄技術の抜本的な変更が欠かせません。

そこで、コークスの代わりに還元剤として水素を用いれば排出されるのはCO2ではなく水となります。これは、ガソリン車がCO2を排出するのに対して、燃料電池車は水を排出するのと同じことです。この実証実験がすでに日本製鉄君津製鉄所で進んでいます。

また、つい最近、三菱重工も同じ試みとなる世界最大級の実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年中にも欧州で稼働を始めると報道されています。

さらに、水素を二酸化炭素と反応させることでメタンに変換、そのまま都市ガス導管に流し、燃料として用いる取組も検討されています。

おわりに

水素は次世代のエネルギーとして注目され、その普及のための技術革新が進んでいます。菅政権が掲げる「温室効果ガス2050年実質ゼロ」、そしてその先の「完全ゼロ」に向けて、国や産業界で水素社会実現への取り組みが加速しているのは頼もしい限りです。次回は脱炭素化の切り札とも言える「人工光合成」について取り上げます。

参考資料

和田 眞