石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料は炭素を含む有機化合物で、燃焼させればCO2を排出します。一方、水素を燃焼させても炭素源がないのでCO2は排出されず、出てくるのは水だけです。これが、利用段階ではCO2を排出しない新エネルギーと言われるゆえんです。
したがって、CO2排出量の多い「電力部門」「産業部門」「運輸部門」で水素を利活用することによって、低炭素化へ貢献すると期待されています。
また、水素製造時にCO2を排出しない方法で作ったCO2フリー水素を利用すれば、CO2を全く排出しないゼロエミッションのエネルギーシステムができ上ります。これは、まさにCO2排出「完全ゼロ」を指しています。
CO2など温室効果ガスの排出「実質ゼロ」の動きが世界的に加速していますが、この「実質ゼロ」は、人為的に排出されるCO2の量と植物が光合成で吸収するCO2の量が均衡するという意味です。
地球上に人類や生物が生存する限り、呼吸をしてCO2を吐き、大量のごみを焼却します。そのためCO2排出を「完全ゼロ」にすることは不可能ですが、少なくとも今、問題になっている化石燃料の燃焼に伴うCO2排出を、「実質ゼロ」ではなく「完全ゼロ」にする方策は、難しいとはいえ追求していくべきでしょう。
水素の製造・運搬・貯蔵
水素から電気エネルギーを得る原理は今から180年前に見つけられていました。にもかかわらず開発が遅れたのはなぜかというと、水素を容易かつ安価に得る方法や、気体である水素の運搬と貯蔵が困難だったからです。
水素の製造方法はいくつかあり、水の電気分解による方法、苛性ソーダ製造の副生水素(NaClの電気分解)は中学校や高等学校化学の教科書にも登場します。また、製鉄所コークス炉からの副生水素、化石燃料(石油のナフサ)の水蒸気改質による方法、光触媒による方法(人工光合成、これについては別稿で取り上げます)などもあります。
これらのうち、現時点で大量かつ安価に水素を製造することができるのは化石燃料のナフサを使う方法です。しかし、この方法はCO2を排出してしまいますから、上述の人工光合成のようなCO2フリー水素製造の開発が必要です。