埼玉県の火災で首都圏が大停電に
まだ約2週間前の出来事ですからご記憶の方も多いかと思いますが、2016年10月12日に首都圏で大停電が発生し約58万戸余りが影響を受けました。
今回の停電でまず気になったのは、停電の原因が埼玉県新座市にある地中送電ケーブルの火災でありながら、影響が広範囲に広がったことです。霞が関も停電となったという報道がありましたが、有楽町のオフィスに勤める友人も、エレベーターが停止し、パソコンも使えなくなり大変だったとこぼしていました。
また、原因が約35年前に設置された老朽化した電線の火災によるものだったということも、非常に気がかりな点です。
今回の事故を受けて、東京電力では「新座洞道火災事故検証委員会」を10月17日に設置し、外部の専門家も交えて原因究明や再発防止策を検討すると発表しています。現時点では詳細な原因等について全てが明らかになっていませんが、各種報道等をもとに、上記の気になるポイントについて考えて見たいと思います。
なぜ広範囲に広がったのか
まず、埼玉県で起きた火災が原因で、遠く離れた東京都の霞が関までが影響を受けるという広範囲な停電になった理由としては、送電網の多重化が上手く機能しなかったことが一因と推察されます。
発電所で作られた電気は、網目のような送電線を経由してオフィスや家庭などに送られますが、その間は常に1対1ではなく様々な迂回路を経由して届けられます。そのため、電線の老朽化だけではなく、送配電設備やその機能にも改善余地があった可能性も考えられます。
老朽化した電線の更新需要は膨大
今回の停電の主因は老朽化した電線です。火災が発生した電線は、OFケーブルと呼ばれる油入り紙絶縁でカバーされたタイプで、今では生産しているメーカーはほとんどない模様です。
そのため、今後は樹脂でカバーされたCVケーブルに置き換えられることになります。潜在需要は首都圏だけでも約1,000キロメートルに達し、関連工事費は数千億円規模と、多額なものになると見積られています。
事故後、関連銘柄の株価はどうなったか
では、今後どのような企業が注目されることになるでしょうか。まず思い浮かぶのは、電線メーカーや工事会社です。また、OFタイプからCVタイプへとケーブルを切り替えるためには、変圧器も交換しなければなりません。
さらに、多重化をより強化するためには受変電設備の新設や更新を進める必要もあると推察されるため、日立製作所、東芝、三菱電機、明電舎、東光高岳、ダイヘンなどの重電メーカーにも影響が及ぶ可能性が考えられます。
では、上述した上場企業の停電発生以降の株価推移を見てみましょう。大手重電メーカーは事業範囲が広すぎるため除外し、中堅企業を中心に事故が起きた10月12日終値と10月25日の終値で株価の変化率を調べてみると、以下のようになりました。
- 古河電気工業(5801):+1%
- 住友電気工業(5802):+3%
- フジクラ(5803):+3%
- 明電舎(6508):+4%
- ダイヘン(6622):+11%
- 東光高岳(6617):+3%
- TOPIX:+3%
なぜ材料視されなかったのか
結果は上記の通りほとんど市場平均並みですので、これまでのところ、このニュースは株式市場的には大きな材料とはなっていないと言えます。もちろん、単純に情報量が少なく消化難な状態に留まっている可能性が高いものの、あくまでも私見ですが、他にも理由はいくつか考えられます。
第1は、東京オリンピックに向けて、老朽化インフラの更新投資が必要であることが、かなり以前から注目されていたため、既に今後のポテンシャルは株価には織り込み済であったこと。
第2は、人手不足や投資不足の結果、増産余力がないことや、仮に“特需”対応のために増産対応を行っても、将来その設備が不良資産化するリスクがあるため、前向きには織り込めないこと。
第3は、需要があっても、それを行う投資主体(電力会社等)に投資余力がないのではないかという疑念があるため。特に、東京電力ホールディングスは福島第一原子力発電所の廃炉という大きな課題があるため、それどころではないだろうという読みも働いている可能性があります。
まとめ
今回は電力設備関連の問題でしたが、老朽化は水道、ガス、道路、トンネルなど様々なインフラに広がっている可能性が高いでしょう。そのため、今後もこうした問題が頻発することが想定されます。
また、人口減の日本社会でインフラ更新需要は最も安定的であり、かつ必要とされる投資です。こうしたテーマについては、引き続き注視していきたいと思います。
和泉 美治