任天堂は、新型据え置き型ゲーム機である「ニンテンドースイッチ」が発表されたにもかかわらず株価が冴えません。その一方で、スマホ向けアプリなどで任天堂と事業上の取り組みを行っているDeNAの株価は好調です。その背景について考えます。
任天堂新型ゲーム機普及のポイントは入力インターフェース
任天堂は10月20日23時(日本時間)に、新型据え置き型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」のコンセプト動画を公開しました。しかし、その後の任天堂の株価は冴えません。その最大の理由は、株式市場が依然としてニンテンドースイッチの普及イメージを持てていないということでしょうか。
まだ実機にも触れていないのに普及するかどうか判断を下すのには時期尚早ではないか、という意見もあるでしょう。確かに、今後実際に手に触れてみて面白い!と思う可能性はありますが、やはり株式市場は、次世代据え置き型ゲーム機が「新しいゲーム体験」を提供できるかどうかということに最大の関心を払っていたと考えられます。
「新しいゲーム体験」とは具体的にどのようなことでしょうか。1つ言えるのは、ゲーム機の入力インターフェースが革新的かどうかということがあります。
これまで任天堂が発売した据え置き型ゲーム機で最も普及したのはWiiで、2016年6月末時点で累計1億163万台です。Wiiの入力インターフェースであるモーションコントローラが多くのユーザーを引き付けたことは記憶に残っているのではないでしょうか。
ちなみに、Wiiの後継機であるWii Uは同時点で累計1,302万台の販売となっています。Wii Uはゲームパッドを投入したものの、既にiPadを始めとしたタブレットも普及していたために斬新とは言い難いものでした。
「入力インターフェースが進化したスーパーファミコンも相当売れたじゃないか!」という指摘もあるでしょう。しかし、スーパーファミコンの販売台数は累計4,910万台ですが、ファミリーコンピュータは6,191万台とスーパーファミコンを上回っています。ファミコンはゲーム市場に十字キーその他のボタンを搭載した入力インターフェースが、家庭用ゲーム機市場を生み出すほどに画期的だったのです。
こうして見ると、任天堂の据え置き型ゲーム機ヒットのポイントは入力インターフェースの進化にある言えますが、今回のニンテンドースイッチでは、これまでのゲーム機と比べるとそうした進化があるかどうか、少なくとも動画を見るだけでは確認できていません(今後詳細なスペックが公開されれば、新たな入力インターフェースかどうか確認の可能性はあります)。
新しい入力インターフェースを採用すると、サードパーティー(任天堂以外の開発会社)のソフトウェア企業のゲーム開発がままならず、コンテンツの普及が進まないという批判もあります。しかし、任天堂が最高益を達成したのはニンテンドーDSとWiiという、いずれも新しい入力インターフェースを発表した時期であることにも注意が必要です。
任天堂は新型ゲームを出す度に普及からスタート
任天堂には、新型ゲーム機を発表する度に新しいチャレンジがあります。今回はハードウェアを自力で全世界に普及させなければならないのですが、これは多くの人が考えるよりも非常に難しいチャレンジと言えます。
既に多くの人が感じているように、スマホがこれほどまでに普及し、その上でゲームが楽しめるという環境下で、ゲーム機を新たに購入してもらうよう消費者を説得することは容易ではないでしょう。エンタテインメントの選択肢が多い中、どのようなフックを提示するかということがポイントになりますが、先に指摘したように、従来は入力インターフェースがフックだったと言えるでしょう。
ハードウェアを普及させるのは各社の自助努力だろうと言われるかもしれませんが、スマホは通信事業者とともに消費者が支払う通信料の内訳などを工夫しながら販売を一気に加速させるという選択肢があります。これはゲーム機単体の販売施策とは異なる点ではないでしょうか。
当然ながら、サードパーティーと呼ばれるソフトウェア企業は、普及したハードウェアにコンテンツを提供したいと判断するでしょう。新しいゲームを開発するのであれば、既に普及したハードウェアに提供した方がより多く販売できる可能性が高まるからです。
ハードウェアとソフトウェアの関係はニワトリとタマゴの議論に似ていますが、サードパーティーから見ればハードウェアが普及した後にソフトウェアを投入する方が理にかなっていると言えます。したがって、任天堂も、より多くのサードパーティーに新しい据え置き型ゲーム機というプラットフォームに参加してもらうためには、普及台数という実績を持って説得するという作業が発生します。これは非常に大きなチャレンジです。
なぜDeNAの株価は上昇するのか
なぜDeNAの株価は上昇するのかという点を一言で言えば、「スーパーマリオラン」への期待が次第に高まってきているのではないでしょうか。DeNAは同タイトルで協業することをすでに発表しています。
任天堂とDeNAとの同事業における収益分配の詳細については、このリリースだけでは不明です。ただし、普及しているスマホ上で使用可能なアプリゲームであることを考慮すれば、ゲーム内の課金体系や単価次第ではありますが、ニンテンドースイッチのようにハードウェアを普及させなければならないフェーズを必要としないために、費用負担が少なく、時間的にも早い段階で結果が出るのではないでしょうか。
この点は「ポケモンGO」とは大きく異なる点です。「ポケモンGO」の収益モデルをさらに知りたい方は以下のリンクをご参照ください。
任天堂はハードウェアの取り組みをやめる方がいいのか
株式市場では「任天堂はソフトウェアの事業に専念すべきではないか」という議論が頻繁に起こります。しかし、1つ言えるのは、コンテンツに特化してしまうと自社コンテンツの流通先が他社プラットフォームに依存することになり、収益の首根っこを押さえられてしまうことになります。サービスプラットフォームと呼ばれるAppストアやGoogle Playにおける支払い比率が変更になった場合には、収益のボラティリティが高まります。
また、ハードウェアを他社製品に依存することは、新しいゲーム体験を提供するという目的からすれば重要な領域の半分を他社に依存することになります。任天堂のゲームは、これまで特徴的なハードウェア(特に入力インターフェース)とコンテンツの掛け算により実現してきたものです。
「ソフトウェアに特化せよ」という指摘はその歴史を理解していないとも言えますし、短期的な評価に過ぎないとも言えます(短期で収益リターンの高い取り組みだとは思います)。
まとめ
いかがだったでしょうか。ゲーム事業と一口に言っても、その取り組み方によって評価が異なります。そうした視点でニュースを分析していくと様々なポイントが見えてきます。引き続き注目のイベントです。