ポケモンGOに沸く任天堂の業績は本当に復活するのか

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ポケモンGOリリースで株価は93%上昇

2016年7月6日に米国でリリースされた“Pockemon GO(ポケモンゴー)”。リリースされた国では社会現象にもなりつつあり、大きなブームになっています。

実際に、株式市場でも任天堂(7974)の株価は発表以降急激に上昇し、2016年7月6日に任天堂株価の終値は14,380円だったのが、7月15日終値では27,780円と実に+93%も上昇しました。株式市場での期待の大きさがうかがえます。

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2016年度の業績予想はピークの10分の1以下

では、任天堂はこのポケモンGOで業績的に復活することができるのでしょうか。

なぜ復活と言うかは、同社の業績の推移を見ていけば分かりますが、2009年3月期(2008年度)に営業利益で5,553億円であった水準が、2017年3月期(2016年度)の会社予想では450億円となっています。2017年3月期の業績が会社予想と同水準で着地すれば、実に収益は10分の1以下になることになります。

ポケモンGOは業績のエンジンとなるか

2008年度は、携帯型ゲーム機であるニンテンドーDSだけではなく据え置き型ゲーム機Wiiも販売台数を大きく伸ばし、その関連ソフトも大きく販売数量を伸ばしていました。2008年度の業績はそうしたハードウェアとソフトウェアの収益が大きく貢献していたことになります。

では、今回のポケモンGOは任天堂の業績を大きく再浮上させるエンジンとなるのでしょうか? それについて考えてみたいと思います。

ナイアンティックとはどのような企業か

ポケモンGOのサイトを見るとポケモンGOの開発元・販売元はNiantic, Inc.(ナイアンティック)となっています。

ナイアンティックをご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、Ingress(イングレス)という、スマホ上でマップを使用した陣取り合戦ゲームで有名です。ナイアンティックはもともとグーグルの社内スタートアップがスピンアウトした企業です。

任天堂は2015年10月に、株式会社ポケモンとともにナイアンティックとポケモンGOを共同開発するためにナイアンティックに出資をしています。ナイアンティックの当時のプレスリリースからは、株式会社ポケモン、グーグル、任天堂から総計3,000万ドル(1ドル=105円換算で約31.5億円)の資金調達をしています(イニシャルでは2,000万ドル)。

ナイアンティックは、この資金をポケモンGOとイングレスの開発に使うとしています。つまり、任天堂と株式会社ポケモンはナイアンティックの株主ということになります。

ポケモンはポケモンのもの

さて、そもそもポケモンは任天堂のコンテンツだとお考えの方もおられるかもしれませんが、そうではありません。ポケモンは、株式会社ポケモンのコンテンツです。ただ、任天堂は株式会社ポケモンの株主であり、持分法適用子会社となっています。2016年3月期の有価証券報告書によれば、任天堂は株式会社ポケモンの議決権のうち32%を保有しています。

収益経路を考える

今回のポケモンGOで任天堂が得ることのできる収益の基本構造は、資本構成から推測すると以下の2つが中心と思われます。

  1. ナイアンティックがイングレスとポケモンGO等のサービスを提供することによって得られた利益を原資とした株主への配当
  2. 株式会社ポケモンのポケモンGOを含めて全社で得られた利益を原資とした株主への配当

株式会社ポケモンはナイアンティックからポケモンの使用許諾料などを得る契約をしているかもしれませんが、株式会社ポケモンはナイアンティックに出資もしており詳細は分かりません。いずれにせよ、株式会社ポケモンの利益が拡大すれば、その株主である任天堂は潤うことになります。

ただし、よく考えてみて欲しいのですが、このスキームでは任天堂が直接収益を手にする構造とはなっていません。任天堂が得られるのは、ナイアンティックや株式会社ポケモンからの配当という2次的収益です。ポケモンGOのアプリ内課金が大きく伸びても1次的にはナイアンティックの売上であり、また、グーグルのグーグルプレイやアップルのアップストアにプラットフォーム使用料として流れる仕組みです。

任天堂からしてみれば、スマホ上で位置情報を活用することによってゲームを面白くしたい、また自社でそれらを短期間に実現するリソースが不足していたという観点から、ナイアンティックへの出資と共同開発ということでポケモンGOのプロジェクトを進めさせたのだと思われます。

しかし、裏を返せば出資にとどめたという事実は、コンテンツをスマホに展開するだけでは任天堂全体の収益を大きくドライブするだけの材料としては不十分ということではないでしょうか。

任天堂の仕事は新たなハードの提案とコンテンツを組み合わせること

過去の任天堂の売上や利益は、独自のユーザーインタフェースを持つハードウェアとそれに最適なソフトウェアが組み合わさることで新しいユーザー体験を提供することから生まれてきました。

現在のハードウェアであるニンテンドー3DSやWii Uが変化点にあることを考慮すると、次世代機のハードウェア“NX”がカギであることには変わりありません。どこまで行っても任天堂の業績を大きく変えるきっかけとなるのはハードウェアとコンテンツの組み合わせです。

ポケモンGOが米国でリリースされるちょうど1年前の2015年7月11日に、岩田聡元任天堂社長が亡くなられました。もちろん、ポケモンGOが熱狂的に迎えられた立ち上がりを喜んでいると思います。任天堂は出資案件を通じてこうしたユーザーのニーズを見ることで、次世代機(ハードウェア)に反映してほしいものです。任天堂の次世代機への期待は膨らむばかりです。

泉田 良輔

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執筆者
泉田 良輔
  • 泉田 良輔
  • 証券アナリスト/経営者/元機関投資家

愛媛県松山市出身。2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(以下、ナビプラ)をシティグループ証券出身の証券アナリストであった原田慎司らとともに創業。ナビプラでは2013年に、個人投資家のための金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。ナビプラ創業とLongineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として取り上げられ大きな反響を呼ぶ。Longineの購読者は個人投資家だけではなく投信やヘッジファンドといった機関投資家も含まれ、投資情報のサブスクモデルを確立した。その後、株初心者向けネットメディア「株1(カブワン)」、2015年には、くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」の前身となる「投信1(トウシンワン)」を立ち上げる。それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。スペイン・ドミニコ会ロザリオ管区が設立した私立愛光中学校・愛光高等学校で6年間の寮生活を経て、慶応義塾大学商学部卒業。学部では深尾光洋ゼミにて国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)。大学院では農業用水を活用した小水力発電システムをテーマに再生可能エネルギーシステムデザインの研究を行う。著書に『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』『銀行はこれからどうなるのか』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)。また「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesThe EconomistBloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール慶應丸の内キャンパス慶應義塾SDMアカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。東京工業大学大学院非常勤講師として「エネルギー政策・経済特別講義」を2016年度から行う。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA) Blog:「泉田良輔の考え」 Twitter: @IzumX