シングルマザーが知っておきたい「年金分割」とは?
「年金分割」という制度があります。
これは「合意分割制度」と「3号分割制度」の2つに分けられ、離婚した場合に条件を満たせば利用できるものです。その制度の内容を、日本年金機構の「離婚時の年金分割」をもとにみてみましょう。
合意分割制度
離婚などをした時に、夫婦どちらか一方の請求で、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦間で分割することができます。下記が条件です。
- 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること(共済組合などの組合員である期間を含む)
- 夫婦双方の合意または裁判手続により按分割合を定めたこと(合意がまとまらない場合は、夫婦の一方の求めにより、裁判所が按分割合を定めることが可能)
- 請求期限(原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと
- 合意分割の請求をすると、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれているときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされる。
参考:日本年金機構「離婚時の年金分割」
3号分割制度
2008年5月1日以後に離婚などをした、「国民年金第3号被保険者」だった人は、2008年4月1日以後の婚姻期間中のみ分割請求できる制度です。
相手の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、元夫婦間で分割することができます。婚姻期間のしばりと1人のみで請求の手続きができる点が特徴です。以下が条件となっています。
- 婚姻期間中に2008年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること(共済組合などの組合員である期間を含む)
- 請求期限(原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと(分割される方が障害厚生年金の受給権者で、この分割請求の対象期間を年金額の基礎としている場合、「3号分割」請求は認められない)
参考:日本年金機構「離婚時の年金分割」
年金分割の金額はどのくらい?
では、年金分割によって実際に変動する金額はどのくらいなのでしょうか。先述の「令和元年(2019年)度厚生年金保険・国民年金事業の概況 」から、「厚生年金保険(第1号)における離婚等に伴う保険料納付記録の分割件数の推移」をみてみましょう。
※( )内は離婚件数
- 2015年度:2万7149件(22万8879組)
- 2016年度:2万6682件(21万9351組)
- 2017年度:2万6063件(21万4069組)
- 2018年度:2万8793件(21万2871組)
- 2019年度:2万9391件(21万3349組)
厚生年金の分割件数は増加傾向、離婚件数は緩やかな減少傾向となっています。そして、分割年金をした割合は1割ほど。こうみると、分割年金をするケースは少数派のようです。
では、どのくらいの金額が変動するのかもチェックしてみましょう。分割改定後の平均年金月額の変動は以下の通りです。
用語解説:「第1号改定者」と「第2号改定者」
第1号改定者…離婚した夫婦の対象期間標準報酬総額が多い方。(元夫側に多い)
第2号改定者…離婚した夫婦の対象期間標準報酬総額が少ない方。(元妻側に多い)
第1号改定者
平均年金月額(円)
- 2015年度:13万6995円(改定前)→11万1329円(改定後)
- 2016年度:14万123円(改定前)→10万9620円(改定後)
- 2017年度:14万2713円(改定前)→11万1892円(改定後)
- 2018年度:14万3208円(改定前)→11万2272円(改定後)
- 2019年度:14万3162円(改定前)→11万4025円(改定後)
平均年金月額の変動差
- 2015年度:2万5666円減
- 2016年度:3万503円減
- 2017年度:3万821円減
- 2018年度:3万937円減
- 2019年度:2万9137円減
第2号改定者
平均年金月額(円)
- 2015年度:5万4819円(改定前)→8万1647円(改定後)
- 2016年度:4万8546円(改定前)→8万513円(改定後)
- 2017年度:4万9741円(改定前)→8万799円(改定後)
- 2018年度:5万1436円(改定前)→8万2701円(改定後)
- 2019年度:5万3405円(改定前)→8万4056円(改定後)
平均年金月額の変動差
- 2015年度:2万6828円増
- 2016年度:3万1967円増
- 2017年度:3万1058円増
- 2018年度:3万1265円増
- 2019年度:3万651円増
さらに、3号分割のみに限定した件数と平均年金月額の変動もみていきます。
「3号分割のみ」の件数・平均年金月額の変動
男性
- 2015年度:140人
- 2016年度:148人
- 2017年度:169人
- 2018年度:245人
- 2019年度:294人
女性
- 2015年度:91人
- 2016年度:101人
- 2017年度:115人
- 2018年度:158人
- 2019年度:187人
男性の平均年金月額(円)
- 2015年度:11万3919円(改定前)→11万1546円(改定後)
- 2016年度:12万5020円(改定前)→12万415円(改定後)
- 2017年度:13万401円(改定前)→12万8383円(改定後)
- 2018年度:12万8935円(改定前)→12万2545円(改定後)
- 2019年度:13万1592円(改定前)→12万5542円(改定後)
男性の平均年金月額の変動差(円)
- 2015年度:2374円減
- 2016年度:4605円減
- 2017年度:2018円減
- 2018年度:6390円減
- 2019年度:6049円減
女性の平均年金月額(円)
- 2015年度:3万721円(改定前)→3万3727円(改定後)
- 2016年度:2万8651円(改定前)→3万3845円(改定後)
- 2017年度:3万2989円(改定前)→3万7702円(改定後)
- 2018年度:3万4434円(改定前)→3万9499円(改定後)
- 2019年度:3万7159円(改定前)→4万2248円(改定後)
女性の平均年金月額の変動差(円)
- 2015年度:3006円増
- 2016年度:5194円増
- 2017年度:4713円増
- 2018年度:5065円増
- 2019年度:5089円増
「元妻」側に多い2号分割をみると、女性の変動額は3万円前後。3号分割のみだと3000~5000円ほどと示されています。多くの場合、増額はするものの、そこまで大幅な変動はないようです。
そもそも、分割の対象は「婚姻期間中の厚生年金部分」のみ。そのため、離婚のタイミングによっては、分割して得られる部分が少ないケースもあるわけです。
将来を見据えた「お金の計画」を
夫と「死別」した場合、自身の年金に加えて、遺族年金、寡婦年金といった上乗せがあります。
一方で「離婚」の場合、上乗せの可能性があるものは年金分割のみ。そのため、離婚してシングルマザーになった人のなかには、老後に対する不安を抱えているケースも少なくありません。
老後生活への不安を取り除くためには、今のうちにお金の備えをしておくことが大切です。
ただし、「思うように働けない」「年金保険料の支払いもままならない」という事態に陥った際、未納のまま放置するのはNG。未納があると、将来の年金の減額、財産の差し押さえといったリスクが伴います。年金保険料の支払いが厳しい場合は、「免除」の制度の検討も視野に入れるよいかもしれません。
可能であれば、iDeCoや個人年金といった方法で、若いうちから少額をコツコツ積み立てるスタイルで資産形成に取り組む方法もおススメ。
「仕事と育児で精いっぱい」「遠い将来のお金のことまで手が回らない…」、でも老後のお金のことも心配、いう方は、お金のプロのアドバイスを受けてみるのもひとつの方法でしょう。
ひとりひとりのライフスタイルに合った、オーダーメイドの「お金の貯め方・育て方」にめぐりあうきっかけになるかもしれません。
参考資料
- 厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
- 厚生労働省「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「離婚時の年金分割」
LIMO編集部