テレビのワイドショーでもサムスンのスマホ発火が話題に
韓国サムスン電子(以下、同社)の新型スマホ「ギャラクシーノート7」(以下、ノート7)の発火問題が最初に明らかになったのは今年8月です。しかし、日本では販売されなかったこともあり当初はそれほど話題になりませんでした。
ただ、その後、原因とされた電池を交換しても発火事例が相次ぎ、航空機への持ち込みが禁止されたり、ノート7の販売中止や製品の回収という事態にまで問題が拡大したため、最近ではテレビのワイドショーでも大きく取り上げられるようになっています。
ところが株価は意外に堅調
そこで気になるのは、同社の株価がどのようになっているかですが、問題が大きくなっている割には意外に堅調です。
同社の株価は、8月に発火問題が明らかになった後も上昇を続け、10月7日には昨年末比35%上昇の年初来高値、かつ上場来高値を付けています。
10月11日にはノート7の販売中止を発表し、12日は7-9月期の決算速報値の下方修正、14日には今回の販売中止に伴う10-12月期および2017年1-3月期業績へのマイナス影響額を公表しています。それでも、株価が大きく下落したのは8日(前日比▲8%下落)だけで、17日の株価は年初来高値比で▲7%下落に留まっています。
このため、同社の直近の株価は昨年末比では+26%上昇と、ソニー(6758)の+14%上昇、米アップルの+14%上昇、TOPIXの▲13%下落、米S&P500種の+3%上昇に対して大きくアウトパフォームしています。
ワイドショーなどでは韓国最大の財閥企業が大変なことになっていると報じられていますが、株式市場の目線からは、現時点では全く”大変な事態”にはなっていないということになります。
なぜ、今のところ堅調なのか
では、なぜこれまでのところ株価は堅調なのか、いくつか理由を考えてみました。
第1に挙げられるのは、現在、株式市場は今回の事案の行く末を楽観視している可能性です。上述のように同社は既に来年1-3月期の業績への影響を開示していますので、今後実施されるであろう対応策や新製品の投入により、ブランドイメージの毀損は最小限に留められ、その後の挽回は可能だという見方が大勢を占めているためと推察されます。
第2に、スマホ事業以外のビジネスへの期待感の大きさです。同社の2016年12月期上期(1-6月期)の営業利益の内訳は、スマホなどのIM(IT & Mobile communications)が53%、フラッシュメモリーや有機ELデバイスなどのDS(Device Solutions)が34%、テレビなどのCE(Consumer Electronics)が13%となっています。
スマホが同社の屋台骨になっていることが分かりますが、一方でデバイスのウエイトも小さいとは言えません。特に、有機ELデバイスは液晶を置きかえることで、また、フラッシュメモリーはHDDを置き換えることで今後も高い成長が期待できますので、スマホの不振が長期化しても同社全体としては回復余地が大きいと判断されている可能性が推察されます。
第3の理由は、強固な財務体質が注目されている可能性です。直近の純資産は約16兆円、株主資本比率は70%超、DEレシオは0.1%とほぼ無借金と言ってよい状態です。このため、こうした潤沢な財務を活用して、スマホ事業の立て直しは十分に可能だと判断されている可能性が推察されます。
まとめ
もちろん、株価が堅調なのはあくまで今のところであり、今後もそうあり続けるのかは誰もわかりません。上述した可能性は、あくまでも推察であり、実は楽観的過ぎる見方だったという可能性も十分考えられるため、敵失でメリットを受ける”漁夫の利”探しの準備は必要かもしれません。
ちなみに、同社の時価総額は17.7兆円でアップルの64兆円に比べると小粒ですが、日本の電機メーカーでトップの時価総額を誇るソニーの4.3兆円の約4倍に達する巨大企業です。今後の動向次第では、同社から他社へ投資資金がシフトする可能性には要注目です。
また、同社は韓国全体の時価総額の約14%を占めていますが、韓国に振り向けられていた投資資金が、日本を含むアジアの他地域に移るかどうかという点も気になるところです。いずれにせよ、今後の動向を注視していきたいと思います。
サムスン電子の過去2年間の株価推移
和泉 美治