SiC(Silicon Carbide=炭化ケイ素)ウエハーとこれを用いたパワー半導体&高周波半導体を製造している米クリー(Cree)は、2022年上期に稼働予定のニューヨーク州モホークバレー新工場で8インチ(200mm)のSiCウエハーを採用する。
当初は6インチ(150mm)で立ち上げ、24年までに8インチを採用する計画だったが、同工場での6インチ採用をスキップし、大口径化でコスト競争力の強化と生産能力の拡大を急ぐ。これに伴い、21会計年度(21年6月期)の設備投資額を4億ドルから5.5億ドルへ引き上げた。
これまでは6インチが最大
SiCは、シリコンに代わる次世代のパワー半導体&高周波半導体材料として期待されている。クリーはSiCウエハーの世界トップメーカーで、世界シェアの6割を持つといわれる。
シリコンウエハーでは口径300mm(12インチ)が実用化されているが、SiCウエハーは現在のところ口径が最大で6インチと小さく、SiCベースのパワー半導体&高周波半導体の量産コスト低減や生産量の拡大に向けて、早期に8インチへの大口径化を実現することが求められていた。
21年が増強投資のピークに
クリーは19年5月、SiCのパワー半導体&高周波半導体とSiCウエハーの生産能力をそれぞれ最大30倍に拡大する計画を公表。総額10億ドルを投資し、本社があるノースカロライナ州ダラム工場の増強に加え、モホークバレーに新工場を建設することを決定した。
そしてこの間、ニューヨーク州アルバニーにあるパイロットラインを8インチに転換して検証を進め、量産化のめどを立てた。投資の増額は8インチ対応の追加設備導入に関連するもので、これには両工場におけるSiC結晶成長設備の増設費用も含まれる。
ちなみに、24年までの投資額に関して、21年が投資のピークになり、22年以降は段階的に減少していく見通しになっている。
8インチの外販「22年はしない」
今後は、ダラムを6インチ、モホークバレーを8インチの専用工場としてそれぞれ能力を拡大していく考えで、24年にはモホークバレーで全生産量の5割以上をまかなう体制にする。また、20年1~3月期中に完了予定である米スマートグローバル(SMART Global Holdings)へのLED事業売却を受けて、数四半期以内に社名をSiC事業を手がけるウルフスピード(Wolfspeed)に変更する予定だ。
クリーはSiCウエハーの外販も手がけており、現在6インチで約2.5億ドル分の供給延長契約を結んでいる。これらはSiC材料事業の約4分の3を占めているが、8インチウエハーの外販についてCEOのGregg Lowe氏は「22年はしない」と述べて自社使用を優先する考えを示した。
供給契約に則り、SiCウエハーの外販は6インチで拡大し、SiCのパワー半導体&高周波半導体の自社生産に8インチを活用してコスト競争力を高める考えのようだ。Gregg Lowe氏は「モホークバレーは世界初、世界唯一の200mm SiC工場になる」と自信を見せた。
20年10~12月期のSiC事業は5%増収
このほど発表した20年10~12月期の業績は、売上高が前年同期比47%減の1.27億ドル、営業損益は5760万ドルの赤字(前年同期は5640万ドルの赤字)だった。大幅な減収になったのは、スマートグローバルへの売却を決めたLEDが非継続事業となり、決算から除外されたため。
ちなみに、SiC事業だけを比較すると、売上高1.27億ドルは前年同期比5%の増収。非継続のLED事業の売上高は前年同期比12%減の1.05億ドルだった。新型コロナ対策に伴う安全操業によって生産量は通常を下回ったが、5G通信インフラ向けにSiC高周波デバイスの需要が拡大し、SiC材料ビジネスの受注もわずかに伸びた。
21年1~3月期は売上高1.27億~1.33億ドルと微増を見込む。今後の収益見通しについては「過去2年に獲得したデザインイン、デザインウィンと初期の生産立ち上げが寄与して、22年以降に増加し始める」と説明した。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏