原因と発生源をめぐる諸説
ここまで神奈川県環境科学センターの分析についてざっくり見てきましたが、最も大きな関心事は今回の異臭騒ぎの原因と発生源です。しかし、現時点において、異臭の原因物質が上記の炭化水素などであると断定されたわけではありません。
なぜならば、ガスクロマトグラフ質量分析計では検知できない、同定(化合物を特定すること)できない他の物質の可能性があるからです。たとえば、今回の異臭騒ぎで硫黄の臭いがしたとの通報がありますが、メルカプタン(硫黄を含む化合物R-SH)は微量でも悪臭を放します。温泉に入った時のあの匂い、硫化水素(H2S)を思い出してください。
とはいえ、ここまでのデータを基に原因と発生源を考えてみましょう。
①石油化学工場、石油タンク、タンカー説
上述の炭化水素類は、石油化学工場で原油から製造・使用されているので、真っ先に考えられる発生源は、安全管理が厳重とは言え、横浜・川崎の湾岸コンビナート(対岸の千葉県も含めて)にある石油化学工場からの漏洩、また、石油タンク、タンカーからの漏れもあるかもしれません。ちなみにタンカー内のガス類は空気中に放出するそうですが、それには届け出が必要です。
神奈川県は、すでに工場や施設の立ち入り調査を実施しているとのことですが、発生源等の特定には至っていません。これらの炭化水素類はガソリン車からも排出されることが、問題を複雑にしています。一方、ベンゼンとアクリロニトリルはガソリンには含まれていないので、扱っている企業の特定は難しいことではないでしょう。
②ガスハイドレート説(地殻変動説)
ガスハイドレートとは、水分子が作る12面体、16面体、20面体のかごの中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、海底深くに存在します。中でもメタンハイドレートが代表的なもので、よく知られています。