数値例で見てみましょう。A社とB社は全く同じビジネスをしているとします。利益は2、総資産は100、ROAは2%です。A社は、銀行借り入れを行わず、すべての資金を株主から調達していますから、ROEも2%です。B社は負債90、純資産10です。

A社が銀行から90を借り入れて、それで自社株買いを行うと、自己資本が10、負債が90となり、B社に変身できるわけです。銀行借入の金利が1%だとすると利益は1.1に減りますが、ROEは11%に高まります。分子の利益が約半減する間に分母が9割減となるからです。

こうした取引により、確かに株主の投資額に対する利益は増えているので、株主は喜んでいるでしょうが、それは世の中にとって大きな迷惑なのです。

企業が倒産すれば多方面に迷惑

A社が20の損失を被ったとしても、自己資本が20減るだけで何も起こりませんが、B社が20の損失を被ると債務超過に陥り、倒産する可能性が高まります。資産を全部売っても負債が返せない状態になるので、銀行が不安になって返済を求めてくるからです。

会社が倒産すると、従業員が路頭に迷いますし、銀行も損失を被ります。納入業社も売り先が減ってしまいますし、下手をすれば売掛金を失いかねません。

日本経済にとっても損失です。企業が倒産すると、まだ使える設備機械がスクラップされてしまったり、企業が持つノウハウや信用といった目に見えない「資産」が雲散霧消してしまうからです。

株主が自分の利益を追求することで、他人に迷惑をかける可能性が高まるわけです。つまり、「株主重視経営としてROEを高めることは良いことだ」ということは言えない、ということです。