マイクロファイナンスは、貧しい人向けに(基本的には)無担保で少額のローンを貸し出す金融サービスです。そのため、多くの方は、マイクロファイナンスの顧客は返済率が悪いと思っていらっしゃるかもしれません。

また、マイクロファイナンスの金利は世界平均で20%~40%と、先進国の金融機関より高くなっています。それは、貸倒率の高さをカバーするために高金利を設定しているからだと考えられているかもしれません。

しかし、先日『マイクロファイナンス機関の金利は規制すべきか?』の記事でも紹介したように、マイクロファイナンスの金利が高い主な理由は、オペレーションコストが高いからであり、決して貸し倒れが多いからではないのです。

データに見るマイクロファイナンスの貸倒率

Mix Marketというマイクロファイナンス機関のデータベースによると、マイクロファイナンス機関の平均年間貸倒率は2.5%程と、極めて低い状況です(ただし、世界中すべてのマイクロファイナンス機関がMix Marketに登録されているわけではないので注意が必要です)。

残念ながら、多くの人はこのような客観的なデータに触れる機会がありません。一方、メディアは注目を集めるために極端な例にフォーカスする場合も多く、たとえば2010年にインドのアンドラプラデシュ州で起きたマイクロファイナンス危機*1の際も、メディアの誇張気味の報道に政治が過剰に反応した、という側面もありそうです。

また、著者は実際に中米のマイクロファイナンス機関に勤務していたことがありますが、仕事量の8割は返済が滞っているお客様に割くことになります。順調に返済できているお客様は何もしなくても支店にやってきて返済してくれるため、特に対応する必要がないからです。

このような経験をすると、あたかも多くの人が債務不履行に陥っているような感覚になるのですが、上記のように、客観的なデータを見ると実はそうではないことが分かります。

*1 2010年のインド、アンドラプラデシュ州で起きたマイクロファイナンス危機。マイクロファイナンス機関の複数の顧客が借金苦で自殺したことを発端に、マイクロファイナンス機関への返済拒否の動きが強まり、複数のマイクロファイナンス機関が倒産した。

マイクロファイナンスにおけるボトルネックは何か

従来は、担保を取らないマイクロファイナンス機関が財務的に持続できる理由は、グループレンディング方式と連帯保証制度を組み合わせて債務者にピアプレッシャー(コミュニティ間や知人間での返済プレッシャー)をかけることで高い回収率を保っていたからだと考えられていました。

しかし、最近の調査で連帯保証のありなしは返済率に影響を与えないことが分かってきました。貧困層も金融機関に対してきちんと返済を行うことの重要性をよく認識しており、中間層や富裕層と比べてもひけをとらない返済率を達成できるということです。

つまり、マイクロファイナンスのボトルネックは、貧困層の返済に対する意識の低さやお金のマネジメント能力の低さではなく、彼らが遠隔地に住んでいたり、一件当たりの貸出金額が小さいことによるオペレーションコストの高さなのです。問題は顧客の側ではなく、金融機関側にあるのかもしれません。

フィンテックが変えるマイクロファイナンス市場

先日、『非効率による高金利を引き下げられるのはフィンテック?』の記事でも書いたように、フィンテックはこのような金融機関側の弱みを一気に解決する可能性を持っています。モバイルマネー等による融資で遠隔地への融資は容易になりますし、同じくオンラインでの融資を行うことで一件当たりの融資額の低さは問題ではなくなります。

フィンテックによって物理的な壁がなくなり、マイクロファイナンス市場が我々の住む先進国の金融市場と同じような金融市場になる日も近いのかもしれません。

参考文献:
Is 95% a good collection rate?(2009, CGAP)
Andhra Pradesh 2010; Global implications of the crisis in Indian microfinance(2010, CGAP)
Group versus individual liability: long term evidence from Philippines microcredit lending groups(2010, World Bank)

 

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