多くの銀行では、いまだに印鑑がないと本人確認に支障をきたします。すでにネット銀行の一部は印鑑を廃止していますが(個人取引)、複製可能な印鑑を本人確認資料とするメガバンクや地銀に、明るい未来はないと言っていいでしょう。実際、先日、某メガバンク支店で筆者がキャッシュカードの再発行を依頼したら、印影確認だけで30分もかかっていました。

加えて、ネット銀行にはATM利用通知や入出金通知が即時電子メールで届くサービスも行っています。一部の大手銀行は同様なサービスを展開していますが、全ての銀行が同水準ではありません。今や後発のネット銀行の方がメガバンクや地銀の利便性をはるかに上回っているのです。

この程度のサービスは個別の強化策を取ればいいだけの話ですが、取引のすべてがデジタル化されるDXでは、業務や事務手続きを全面的に見直す必要があるのです。地銀再編問題は、それができる体力(=収益力)が銀行全体に残されているかどうかと、DX化ができた後に顧客がその銀行に残っているかどうかが真の問題なのです。

金融テクノロジーの進化は予想がつかない

時代の変化と技術革新のスピードが凄まじく上がっている現在、金融テクノロジーの進化には予想がつきません。35年前に筆者が初めて配属されたメガバンクの支店にはコピー機がありませんでした。稟議書は手書きです。当然、ネットバンキングなんて考えられませんでした。

しかしその後、書類作りはパソコン作業になり、ネット取引は当然のこととなり、今はスマホだけでほとんどの銀行取引ができる時代です。このように、過去の延長に未来はなく、未来は突然やってくるものなのです。

つまり、今は地銀再編云々を議論している場合ではなく、むしろ銀行業務を開放して異業種の自由な参入を促し、ガラガラポンをしないと日本の金融の未来は暗いと思います。既存の銀行ビジネスに慣れきった世代の経営者が、テクノロジーの進化について行けないのは当然のことなのですから。

太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)