通常、油膜汚れの厚さは1~2ミクロン(ミクロンは100万分の1メートル)ですから、約15ミクロンの太さをもつ普通の繊維で完全に拭き取ることは不可能でした。一方トレシーは、東レの高分子化学の技術で約2ミクロンの繊維を実現しているため、極細繊維が次々と油膜の中に入り込み汚れを拭き取ります。
このマイクロファイバーよりもさらに3桁細い繊維がナノファイバーです。
ナノとは10億分の1のことで、例えるなら地球の直径に対して1円玉くらいの大きさ。1ナノメートルは10億分の1メートルで、髪の毛の太さの約10万分の1にあたります。
ナノファイバーは1本の太さが500ナノメートル以下、髪の毛の200分の1程度の超極細繊維です。従来のマイクロファイバーに比べて高比表面積(比表面積とは、単位重量あたりの表面積)、高空隙率(隙間の割合)、軽量、微細なポア(孔径)、薄さ、滑らかさなどの特徴があり、疎水性(撥水)や親水性(高吸水性)、透過性に優れています。
このような科学(化学)的背景のもとで開発された自己膨潤型高吸油性ポリマーが、エム・テックス社のマジックファイバーです。マジックファイバーの原料は前述のとおりポリプロピレンで、これはもともと油ですから油と親しくしますし、超極細繊維ですから高い比表面積と空隙率を有しています。
ナノファイバーの可能性
このナノファイバーの技術は21世紀の最重要技術と捉えられており、数十兆円規模の巨大な市場が見込まれています。
衣類や繊維(空気を通しても水を通さない繊維、超微細なゴミのふき取り材)、医療(マスク、フィルター、人工皮膚、薬)、水耕栽培、砂漠の緑化、新規高吸水性ポリマー(水害復旧など)、エチレン吸収鮮度保持ポリマー(市販の“愛菜果”には微粉末の大谷石が入っていてエチレンを吸収)、住宅用建材(断熱性や吸音性が通常の繊維よりも高い)としても期待されるほか、飛行機・車の吸音材など、その用途は無限大と言われています。
今回のモーリシャス沖の重油流出は人災、地球規模の気象変動による災害は天災とはいえその原因を考えればこれも人災。地球環境を破壊するのも人間ですが、その環境を取り戻すのも人間の役目です。本稿が、科学・文明の進歩と人間社会を考える機会になればと思います。
和田 眞