後処理後の予想外の出来事
それでは話を戻しましょう。Aさんはご兄弟の遺産の相続人になりましたが、ご兄弟は独り身で賃貸アパート住まい、飲み歩きが趣味で、資産と呼べるものは家具家電と50万円にも満たない貯金のみ。
その貯金も葬儀や部屋の片づけで消えてしまい、むしろAさんが費用を持ち出す必要があったそうです。当然相続税がかかることもなく、早々に後処理を終えてほっとしていたAさんに、思いもよらぬ書類が届きます。
遺産相続では「義務」も相続する
Aさんに届いた書類とは、ご兄弟の住民税の納付書です。遺産相続では、現金預金や住宅、土地の権利といったプラスの資産だけでなく、借入金の返済や納税義務といったマイナスの資産も引き継ぐことになります。
意外に見落としがちなのが、この「納税義務」です。とくに住民税は、住宅や自動車を相続したときのように、形があるものを引き継ぐわけではないため見落とす人もいます。
Aさんも住民税は完全に見落としており、納付書が届いて初めて気づいたとのこと。さらに困ったことにご兄弟は住民税の滞納があったため、その請求もAさんに回ってきたそうです。Aさんはすでに年金暮らしで、ご兄弟の部屋の片づけ費用も負担していたため、これ以上は払えないと役所に相談に行ったそうですが、どうにもなりませんでした。
遺産相続の際に、期限内に相続放棄や限定承認の手続きをすれば、基本的に納税義務を引き継ぐことはありません。ですがAさんは、借主がいなくなった部屋をいつまでもそのままにしておくのは申し訳ないと、早々に家財をリサイクル業者などに引き取ってもらい部屋を片付け、貯金も使ってしまったため、相続放棄などの手続きができなかったのです。