愛媛県にある四国電力(9507)伊方原子力発電所3号機が、2016年8月12日に再稼働されました。原油価格の下落傾向と円高で、エネルギー調達費用の負担が軽くなるのではないかとも思われるのに、なぜ四国電力は原発の再稼働を進めたのでしょうか。その背景について考えてみます。
四国電力の2017年3月期第1四半期決算は営業損失
7月28日に発表された四国電力の2017年3月期第1四半期決算は、減収・経常赤字という結果となりました。売上高は対前年同期比▲2%、営業利益は▲84億円の赤字、四半期純利益も▲84億円の赤字となりました。
これには、電力需要の落ち込み、退職給付に関わる数理計算上の差異の償却増、火力・原子力関連の修繕費用の増加など、ファンダメンタルズおよびテクニカルな要因がそれぞれ関係しています。しかし、他電力会社の同時期の決算と比較すると赤字決算はあまり見栄えが良くありません。
他の電力会社の決算はどうだったか
東京電力ホールディングス(9501)の2017年3月期第1四半期決算は、売上高が対前年同期比▲19%減、営業利益は同▲37%減ですが、1,436億円の黒字となっています。中部電力(9502)は同▲15%減、営業利益は同▲33%減ですが、こちらも969億円の黒字です。
また、川内原子力発電所を再稼働させるほど採算が苦しかった九州電力(9508)も、熊本地震の影響で売上高は同▲5%減となっていますが、原子力発電所を再稼働した効果などもあり、営業利益は同+60%増と大きく改善しています。このように、相対的にも四国電力の収益性は悪く見えます。
期ずれする燃料費とその採算
火力発電に使う燃料の輸入価格は変動します。その変動分を調整するために、電気料金には燃料費調整額が含まれて請求されます。
つまり、燃料価格の変動はいずれ電気料金に反映されることになりますが、四半期決算という時間軸では、売上高と費用にずれが生じることがあるのです。これが収益面で差益として出る場合と差損となる場合があります。
四国電力の場合には、2015年7月以降、今期の第1四半期までは差益が出ている状況でした。会社資料によると、2016年度(2017年3月期)第1四半期は期ずれ影響として約20億円の差益が出ていたことになります。
燃料価格が今後どのような推移を示すか、過去のトレンド通りという保証はなく、四国電力もこれまでのような差益の恩恵を受けられるとは限りません。一般的に電力会社の株価が今ひとつ上がらないのには、こうした費用面での懸念があるからと考えることができます。
まとめ
伊方原発3号機の再稼動は、新規制基準への適合性審査に合格したということなどもあるのでしょうが、今後の燃料価格の動向幅を考慮すると、四国電力にとって燃料価格の前提が低い原子力発電を再稼働させることが採算性を改善するための選択肢の1つなのでしょう。
ちなみに、四国電力の原子力発電所はPWR(加圧水型原子炉)であり、東京電力の福島第1・第2原子力発電所のBWR(沸騰水型原子炉)とは設計が異なります。九州電力の川内原発で再稼働された原子炉もPWRです。
PWRはもともと原子力潜水艦の駆動アーキテクチャーの基盤として知られています。また、世界の原子力発電方式で市場シェアが高いのは、東芝(6502)傘下のウェスティングハウスも採用するPWRです。日本で再稼働されたPWRの稼働状況には、今後も注視が必要かと思われます。
青山 諭志