本記事の3つのポイント

  • レベル3~4の自動運転に向けLiDARの開発および新規参入が相次ぐ。独ボッシュは「カメラ、レーダーに続く第3のセンサー」と表現
  • 有力候補と目される背景には、悪天候下や暗闇でも各対象物との正確な距離、形状、位置関係を高精度に測定し、認識・識別精度も高められるため
  • 実用化の壁となる低コスト化にも向けたアプローチも。高スペックでありながら1台14万8000円という低価格品も登場してきた

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2020年の世界自動車生産台数は前年度比約20%減(約7000万台前後)との見方が優勢となり、「自動車需要がコロナ前の水準に戻るには数年を要すると見る」など、決算発表時のトップ層から語られるコメントからは厳しさが漂う。しかし一方、足元の「電動化、自動運転に向けた開発スケジュールは予定どおり進行している」「来年以降に向け投資は予定どおり決行する」と、中長期を見据える視線に揺るぎはない。

 それを証拠に、ここに来て、3D-LiDAR用受光技術開発成果が東芝からアナウンスされたほか、米国LiDARメーカーのCeptonも半導体業界での経験が豊富なカントリーマネージャーを日本で任命すると7月後半に発表。中国DJIからは3D-LiDAR Livoxシリーズ「Tele-15」の低価格販売が開始された。世界最大級の家電・技術見本市のCES2020(1月7~10日に米ラスベガスで開催)でも、各社から最新LiDARが披露されるなど、レベル3~4以上の自動運転に向けた準備が着々と進行している様子がうかがえる。

 電子デバイス産業新聞が調べたLiDAR参入事例だけでも二十数社に上っており、小型化、低コスト化、3次元高精度画像化も急ピッチで進行し、自動車への設置イメージもより具体性を増してきている。車載用3D-LiDARの世界市場規模は、市場調査会社のテクノ・システム・リサーチによれば、離陸時と予想される2022年の13万台強から2025年には84万台弱、2030年には1100万台弱、2035年には5500万台弱へと大幅な拡大が見通されているほか、LiDAR関連各社のコメントからは同市場は2024年には6600億円前後まで拡大するとの予想も聞かれる。

 レベル3~4以降の自動運転に向け、車載用LiDARが活況を呈してきた実情を検証してみる。

レベル3以降の自動運転に「3D-LiDAR」有力候補

 レベル3以降の自動運転に「3D-LiDAR」活用が有効であることを、大手ティア1の独ボッシュは「カメラ、レーダーに続く第3のセンサー」と表現する。つまり、高速道路上の運転支援機能から市街地での完全自動運転まで見据えた際、カメラ、レーダーを補完する「第3のセンサー」が必須になることを意味する。このカメラ+レーダー+αに3D-LiDARが有力候補と目される背景には、雨・雪・霧など悪天候下や暗闇でも各対象物との正確な距離、形状、位置関係を高精度に測定し、認識・識別精度も高められるという点がある。また、フロントの遠距離のみならず四隅に使用すれば、交差点でバイクや自転車などの近距離検知精度が高まったり、縁石乗り上げ、路上の石まで瞬時に認識・識別できるなどの利点が生まれる。

 ただし、これまでは駆動部にモーターを要するなど小型化が難しかったことや、価格も高く、3次元高精度画像化技術のブラッシュアップを要するなど課題が多かった。また車載搭載に耐え得る堅牢性、耐環境性、信頼性など克服すべきハードルが様々存在していた。

 しかし、最近では欧米を筆頭に課題だった小型化・低コスト化を実現し、高分解能、3次元高精度画像を実現する製品化のアプローチが具体化してきた。主流は、半導体技術やレンズなどを含む光技術で駆動部を伴わない「ソリッドステート型」だが、モーターレスで電磁式MEMSミラーによるレーザー光走査の「MEMS型」の開発競争も繰り広げられている。遠距離対応のフロント搭載用が当初開発ターゲットであったが、カメラ+ミリ波+αの観点では徐行や側後方駐車など一般道・市街地における様々な運転シーンを見据えて四隅、ヘッドライト、バンパーなどへ搭載する近・中距離対応用からの実用化が濃厚になってきている。自動車メーカーなど関係各社との具体的な検証が大詰めを迎えている。

欧州自動車メーカーを中心に3D-LiDAR搭載の動き

 欧州では、自動車メーカーが3D-LiDARを実搭載に踏み切る話が表面化してきている。業界では既知の事例となっている独Audi A8への仏Valeo社の3D-LiDAR「SCALA」が3D-LiDAR搭載で先陣を切った動きに続き、独BMWも2021年からイスラエルのInnoviz Technologies社製3D-LiDAR(MEMSベースのソリッドステート型)搭載に踏み切ることが明らかになっている。

 また、スウェーデンのVolvoも先ごろ次世代自動車に米Luminar社の3D-LiDARを搭載することを表明した。2022年から生産開始予定と見られる。Luminar社の3D-LiDARはレーザー波長が1550nmとシリコン領域を超えたInGaAs領域であり、国内で20年初頭に開催されたオートモーティブワールド(東京ビッグサイト)時には最大250m先(反射率10%時)まで高解像度で距離測定が可能とコメントしていた。小型のInGaAs素子で受光可能な設計を実現していると見られ、18年4月にはROICデザインハウスのBlack Forest Engineering社を買収するなど、内製での3D-LiDAR生産体制を着々と整えている。

 前記のAudi、BMW、Volvoは、いずれも前方用に1個を搭載する事例となる。

 一方、ここに来て直近では、トヨタが新型レクサスLSに近距離検知用に3D-LiDAR 4個搭載を予定しているとの話が業界関係者から舞い込んできた。サラウンドセンシング(360°センシング)を3D-LiDARでまかなうシナリオと見られる。かねてから3D-LiDARの開発を進めているデンソー製を搭載する可能性が予想される。

大手ティア1の開発事例も具体化

 欧州ティア1大手の独コンチネンタル、独ボッシュの3D-LiDARをめぐる動きも注目される。コンチネンタルは2016年に米ASC(Advanced Scientific Concepts)社のLiDAR事業を買収し、高度な完全自動運転向けにソリッドステート設計の近・中距離LiDAR「HFL110」を開発中だ。遠距離はレーダー、検出距離50m程度の近・中距離はLiDARでカバーするフュージョン対応を前提としている。リアルタイムのマシンビジョンに加え、環境マッピング機能も提供し、昼夜問わず車両周辺全体を詳細かつ正確に視覚化する点などを特長とし、悪天候下でも優れた性能を発揮する。新型コロナ自粛前までの情報では、同LiDARの視野角は120°×30°、解像度は128×32(4096)画素で、等級1の目に安全な1064nmレーザーを採用し、フレームレートは最大25Hz、サイズは100×120×65㎜であった。

 一方、ボッシュはCES2020でレーダーとカメラを補完する長距離LiDARを開発し、生産段階に入ったことを明らかにした。高速道路でも市街地でも検知可能な近~遠距離対応LiDARとなる。スペックなど詳細は明らかにしていないが、高速道路から市街地まで多岐にわたる自動運転ユースケースを想定し、既存のカメラ+ミリ波レーダーに加え、3D-LiDARを第3のセンサーと位置づけ、カメラ+ミリ波レーダー+3D-LiDARで完全自動運転を実現していく方向性を見据える。離れた距離にある非金属物体、路上の石まで確実に検知・測距・識別できることで、ブレーキや障害物回避など一連の運転操作の最適タイミング精度がより高まるという。コンチネンタルやボッシュは、車載用の長年の蓄積によりレーダー、カメラ、3D-LiDARなどのセンサーとシステムすべての最適化を図りやすい点もメリットだろう。

 日本でもマレリがTrue-Solid-State型LiDARサプライヤーであるベルギーのXenomatiX社とLiDARソリューションの共同開発を進めている。XenomatiXがマレリの車載照明部門に対し、ADASおよび自動運転アプリケーション向けTrue-Solid-State型LiDARモジュールを提供するというもの。また、マレリが18年に買収したフランスのスタートアップ企業Smart Me Up社のAI知覚技術も同LiDARモジュール向けに活用していくもよう。21年以降の自動運転分野への本格展開を見据えた動きとして注目される。

コンチネンタル製3D-LiDAR「HFL110」(同社プレスリリースより)

 

 ちなみに、各社から相次ぐ発表からは、レベル4の自動走行車では前方の遠距離用に1台、側方の近距離用に4台、後方の中距離用に1台の計6台程度の3D-LiDAR複数搭載が想定されていることもうかがい知れる。

車載用3D-LiDARへ参入メーカー相次ぐ

 さて、こうした状況下、車載向け3D-LiDAR製品では参入企業が相次いでいる。前述の大手ティア1を除いた主要な参入組だけでも、米国ではVelodyne、Cepton、Luminar、Ouster、Quanergy、AEye、カナダのLeddar Tech、ドイツではBlickfeld、Ibeo、ベルギーのXenomatiX、オーストラリアのBaraja、日本ではパイオニア、三菱電機、京セラ、中国のDJI(Livox)、RoboSense、韓国のSOS LAB、イスラエルのInnoviz Technologies、その他新興企業と活況を呈している。

 中でも米Velodyneは3D-LiDAR大手として従来から知られており、オートモーティブワールド2020(1月15~17日開催、東京ビッグサイト)では、OEMモデルとして前方用次世代コンパクトLiDAR「Velarray」、側面用180°ドーム型LiDAR「VelaDome」を自動車に搭載したデモ展示を披露していた。実搭載に向けた検討が始まっていることを示唆している。展示したValarrayは車室内フロントのルームミラーなどに設置可能であり、FOVは水平120°、垂直35°(±17.5°)で測定距離は最大約200m。測定ポイント数は約60万点/秒、測定精度は100m未満時で±3㎝、サイズは70×170×75㎜とコンパクト品であった。

 一方のVeloDomeは車外四隅などに設置する近距離検知用であり、測定距離は0.1~30m、FOVは水平/垂直180°、サイズはφ90×100㎜。縁石乗り上げなどまでカバーできるもよう。従来は複数のレーザーエミッター、レシーバー、処理ボードなど別々の部品で構成されていたものを1モジュールに実装する「MLA(Micro Lidar Array)」を中心部品として搭載することで、小型化を実現したようだ。

 一方、車載用LiDARの小型・軽量化・低コスト化という点で、最近、米AEye社から第5世代LiDAR「4Sight」の販売開始がアナウンスされたことも注目される。MEMSの独自特許取得済みシステム設計により、1㎜未満の小型ミラーに、1550nmのレーザー、レシーバー、スキャナー、SoCで構成した超小型の車載用LiDARと見られ、200m先の歩行者検出なども実現するもよう。中・長距離向けの価格は他社品より3~6割も低価格で提供されると聞く。

 日本勢も3D-LiDAR実用化に向け開発競争を繰り広げている。パイオニアは、500mの遠距離計測可能な「次世代3D-LiDARセンサー」開発を進めており、2021年以降の実用・商用化を標榜。今秋から量産予定の3D-LiDAR製品(2020年モデル)では波長905nmであるが、開発中の新製品では波長1550nmモデルを加える計画を持つ。まずはセキュリティー用途などを含む多用途からビジネス展開し、最終的にはレベル3以上の自動運転向け搭載を見据える。

 また、三菱電機も2020年3月にMEMS式車載LiDAR開発を公表している。水平垂直2軸操作の電磁駆動式MEMSミラーを独自開発し、7×5㎜の軽量ミラー、水平±15°、垂直3.4°の広い振れ角を実現。水平視野角120°により先行車両は歩行者などの高精細3次元画像取得を可能とする。信号処理回路基板と光学系部品の最適配置で本体サイズ108×105×96㎜まで小型化しているが、今後さらなる改良を重ね、2025年以降の実用化を目指していくとする。

 参入メーカーが相次げば、シミュレーターも必要になると見て、マイクロウェーブファクトリーがレベル3以上の自動運転開発向け「LiDARターゲットシミュレーター」の販売を開始するなど、周辺の関連ビジネスも盛り上がってきそうだ。

車載用3D-LiDARへデバイス開発も同時進行

 車載用3D-LiDAR製品に向けたデバイス開発も同時進行で進化している。大手ティア1のデンソーはCASE時代における車載半導体開発の3つの注力ポイント「パワーエレクトロニクス」「AD/ADAS用センサー」「AI、コネクティッド対応のSoC」の1つにAD/ADAS用センサーとして次世代LiDAR技術を位置づける。特に「SPAD(Single Photon Avalanche Diode)受光IC」は同社独自技術だ。カメラ並みの高分解能を持ち、感度も良く、車載用途に耐え得る受光ICとして注目される。何が何m先にあるかも見分けられるという。3次元高精度画像を小型・低コストで実現することを目指している。

 直近の事例では、東芝がレベル4以上の高度自動運転実現に貢献するソリッドステート型3D-LiDAR向け受光技術「アクティブクエンチ型2次元SiPM(Sillicon Photo Multiplier)アレイ」「デュアルデータ変換型読み出し回路」を開発した。非同期LiDARながら200m(画角7°、反射率10%)の長距離測定性能を実現する。画角と測距の兼ね合いから、まずは現状でもスペックが満たせる近・中距離から2022年度までの実用化を目指し、解像度をさらに上げながら最終的には遠距離にも広げていくことになりそうだ。

東芝のアクティブクエンチ型2次元SiPMアレイ(プレスリリースより)

 デバイスメーカーを取り巻くLiDARメーカーの協業も進む。カナダのLeddar Techは2月下旬にサンフランシスコで開催されたAV20シリコンバレーカンファレンスでルネサス エレクトロニクスとのコラボレーションの成果を披露。Leddar Pixellに搭載されているLCA2 LeddarEngineをルネサスと共同開発している。なお、Leddar TechはSTマイクロエレクトロニクス製MEMSミラーベースのレーザースキャンソリューションを使用するなどSTマイクロとも協業するほか、センサーフュージョンと認識ソフトウエア会社のVayaVision(イスラエル)を買収するなど3D-LiDARに向け積極的な動きを見せている。

 米アナログ・デバイセズ社(ADI)も先々の車載用LiDAR製品開発を見据え、独First SensorのAPD(アバランシェ・フォトダイオード)を活用する共同開発を推進中。米オン・セミコンダクターはLiDAR用検出器として、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)技術を利用した高感度フォトンディテクター(PD)「SiPM(Silicon Photon Multiplier)」を開発。韓国のLiDARスタートアップ企業のSOS LABがオン・セミコンダクターとの協業を発表しており、ソリッドステートタイプのLiDAR開発を加速し、2~3年以内の量産を見据えているものと見られる。
 

実用化には「コスト」も重要なファクター

 実用化に向け、「コスト」も重要なファクターとなる。民生用ドローンで世界シェア7割強の実績を有する中国のDJIがこの「コスト」に着眼。3D-LiDAR「Livoxシリーズ」を展開し、最新のTele-15では、反射率50%時に最大500m先を検知するスペックながら14万8000円で販売を開始した。同社ではそれでもまだ車1台あたりにLiDAR複数搭載を勘案すれば低価格化が必要だとして、マッピング用途、セキュリティーなど用途拡大を図ることで量産効果を高めたいとしている。

 3D-LiDAR製品の先頭集団である米Velodyneや米Quanergyはすでに用途拡大を実践中だ。交通監視用、モールや駐車場、空港の監視用などセキュリティー分野での採用事例、農地での安全で効率的なナビゲーション向けロボットへの提供、モバイルスキャナーマッピングなど、幅広い用途への展開が続々と広がってきている。こうした先頭集団の動きに追随すべく参入メーカー各社も、まずはセキュリティー、ロボットなどLiDAR活用が活きる身近な用途へ拡販し、その先にレベル3~4以上の自動運転車搭載を見据えていく流れになりそうだ。

 実証実験車レベルにとどまっている現状では高額だが、量産段階では1台500~1000ドル台を目標とするメーカーが多い。他用途展開で量産効果を高めつつ技術をブラッシュアップしながら、本丸のレベル3~4以上の自動運転向けに各社のチャレンジは続く。

 こうした流れを総括すると、車載用3D-LiDARでは既存ADASのカメラやミリ波レーダーに加え、2021年以降に四隅や後方などに搭載する近・中距離用から実用化が始まり、車以外の用途展開などで量産効果と技術改善を重ねながら2025年以降のレベル3~4以上の自動運転に向け遠距離用も含めた展開へと発展することが見通される。その頃には、LiDARに加え、たとえば夜間の歩行者センシング補助として遠赤外線センサー(マイクロボロメーター)の活用なども選択肢の1つに加わるなど、さらなる広がりが出てくるか否か。今後の市場の進展が注目される。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

まとめにかえて

 自動運転に向け注目が集まるLiDAR。やはり実用化に向けてはコストダウンが大きな要素となりそうです。記事にもあるとおり、低コスト化・小型化を狙い、駆動部を必要としない「メカレス」「ソリッドステード型」がカギを握ることになりそうで、各社のアプローチもいかに市場から求められるコストダウンを性能を保ちながら実現するか、いうところに重きが置かれています。また、OEM/ティア1企業と半導体・デバイスメーカーとの協業関係も市場動向を占う意味で注目ポイントとなりそうです。

電子デバイス産業新聞