前回の記事で、世界的な規模のアンケート調査から退職準備がどれくらい進んでいるかを分析した「フィデリティ退職準備スコア」について述べました。今回は年代別に分析し、そこからわかる特徴を紹介します。
若年層は自助努力の重要性、高年齢層は格差の拡大懸念
フィデリティでは、アンケート調査の有効回答者2,342人、それぞれにスコアを計算しました。これを年代別に集計、その中央値を取ったのが下の表です。
20代の中央値は63ポイント(「警戒」水準)と低く、年齢が上がるにつれて高くなっていることがわかります。
これは公的年金の貢献度合いが年齢が高いほど高くなっていることを反映しているものと推測されます。逆に若年層にとっては自助努力における時間の効果を十分に生かし切れていないことを反映しているのでしょう。
また、その分布にも課題が隠されています。65ポイント未満の「警戒」水準の構成比率は、20代で53%と高く、過半数が今のままでは退職後の生活を大幅に見直さなければならない水準です。
ただ、14%の20代は現状の資産形成を続ければ退職時点で必要とする資産を十分に賄える「計画通り」の水準であることもわかりました。心強い限りです。
課題は50代、60代でしょう。世代の中央値は着実に改善しているのですが、50代でみると「警戒」水準が依然36%と3分の1を占めています。一方で「計画通り」の水準の方も34%を占め、格差がかなり開いていることをうかがわせます。
日本は、英国、カナダと似た傾向
ところで、米国、カナダ、英国、ドイツ、香港でも、アンケート結果に基づいてフィデリティ退職準備スコアを算出しています。
同様に年代別(海外の標準に合わせて区分は3区分で)の傾向をみると、「年齢が高くなるほどスコアも高くなる」という日本の特徴と類似しているのはカナダ、英国です。一方で米国は若年層でもかなり高い水準のスコアとなり、年代別にほぼ横ばいとなっています。
日本型の傾向は、社会保障制度が比較的しっかりしていることが高齢勤労者層のスコアを高くし、それを期待しにくい若年層は自助努力がまだ十分ではないことを推測させます。米国型のように若年層のスコア水準引き上げが急務といえそうです。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史