本記事の3つのポイント
- 車載電池分野で中国CATLの躍進が目立つ。現地顧客だけでなく、BMWなど大手自動車メーカーとの取引が増えている
- 車載電池市場の開拓においては中国・欧州市場への進出とテスラへの対応がカギを握る
- 生産能力の増強も急ピッチ。市場ではLG化学との一騎打ちの様相を見せ始めている
新型コロナウイルスが世界経済に大打撃を与えるなか、車載用リチウムイオン電池(LiB)市場に大きな影響はない。その車載用LiB市場において際立つメーカーがCATL(Contemporary Amperex Technology Co.、 Limited、寧徳時代新能源科技、中国福建省寧徳市)だ。これまで中国における旺盛な電動車需要と補助金制度を背景に急速に売上規模を伸ばし、同市場で首位を争う存在となった。一方、2018年以降はBMW、ホンダ、ボルボ・カーズ、トヨタ自動車、テスラといった有力自動車メーカーと提携。今後、中国以外の地域にも供給することで、さらなる飛躍が見込まれている。
パナ、LG化学と3強を形成
車載用LiB市場はパナソニック、CATL、LG化学が3強の様相を呈している。ブルームバーグによると、19年における乗用EVの出荷量ベースのメーカーシェアは、パナソニックが26%で首位、CATLが23%で2位、LG化学が12%で3位となり、これら3社で市場の61%を占める。以下、BYD(9%)、サムスンSDI(8%)、AESC(4%)などと続く。
パナソニックが首位を堅持している要因は、乗用EVシェアで世界トップのテスラ、ハイブリッド車(HV)で同トップのトヨタ自動車に供給していることが大きい。LG化学はEVでダイムラー、ルノー、フォルクスワーゲン(VW)、HVでアウディ、現代起亜、プラグインハイブリッド車(PHV)でダイムラー、GM、アウディなど有力欧米自動車メーカーを顧客に抱えており、ここ数年はCATLと同様に急速に事業を拡大させている。
海外自動車メーカーと提携
CATLは中国自動車メーカーの乗用EV、EVバス、EVトラック、EVフォークリフト向けに供給し、事業規模を伸ばしてきた。具体的な供給先はBAIC、SAIC、Yutong、Geely、King Long Motor、CRRCなどで、いずれも長期供給契約を締結している。
一方、18年以降は海外自動車メーカーとの提携を本格化し、一気にグローバル展開に向けた取り組みを加速させた。BMWとは18年7月に40億ユーロ分、19年11月に32億ユーロ分の計72億ユーロ分の供給契約を締結すると発表。調達期間は20~31年となる。
これに対して、19年はホンダ、ボルボ、トヨタ、テスラとの提携を矢継ぎ早にアナウンス。具体的には、2月にホンダが世界中に販売するEVやPHV向けに21~27年の7年間にわたって58GWh分のLiBを供給することで合意。5月にはボルボ・カーズと契約を締結し、同社の電動車両向けに今後10年間にわたって数十億ドル規模のLiBを供給すると発表した。
7月にはトヨタとEV用蓄電池に関する包括的パートナーシップを締結し、LiB供給をはじめシステムの技術開発、蓄電池セルの品質向上、さらにはリユース・リサイクルなど幅広い分野において協業するとした。11月にはテスラが中国で販売するEV「モデル3」向けに長期供給することで合意に至った。期間は20年7月~22年6月まで。
カギは中国・欧州進出とテスラ
今後、車載用LiBで特に伸びるのが、搭載容量の多いEV向けだ。HVやPHVが10kWh以下であるのに対して、EVは20~100kWhと圧倒的に多く、また、航続距離の延長に向けて増加傾向にあるためだ。そのうえでカギとなるのが、中国市場進出、欧州市場進出、そしてテスラの3点だ。
中国については電動車需要で世界の半分を占め、また、欧州は環境規制を背景に急速に電動車に舵を切っているのは周知の事実。いずれも今後、電動車需要の中心となるのは疑いようがない。
富士経済によると、19年の世界EV出荷台数は167万台で、うち中国が95万台、欧州が37万台となり、中国・欧州で世界の84%を占めた。また、35年予測では世界1969万台、中国862万台、欧州727万台となり、中国・欧州で81%を占める。
こうしたなか、中国では以前から車載用LiBの大規模工場が建設・稼働してきたが、近年では欧州でも工場建設に向けた設備投資が活発化している。具体的には、中国でパナソニックの大連工場、LG化学の南京工場、サムスンSDIの西安工場、CATLの寧徳工場、溧陽工場、宜賓工場、西寧工場、BYDの深圳工場、恵州工場、青海工場、欧州でLG化学のヴロツワフ工場(ポーランド)、サムスンSDIのグエド工場(ハンガリー)、CATLのチューリンゲン工場(ドイツ)、ノースボルトのシェルレフテオー工場(スウェーデン)などだ。
欧州の各工場は近年に投資されたもので、LG化学のヴロツワフ工場、サムスンSDIのグエド工場が量産稼働中だ。また、ノースボルトのシェルレフテオー工場が20年、CATLのチューリンゲン工場が21年からそれぞれ生産を開始する予定。
一方、テスラがカギとなるのは、EV市場で圧倒的なプレゼンスを誇るからにほかならない。EV関連のコンサルティングを手がけるEV Volumeによると、19年のテスラのEV出荷台数は36万7820台となり、シェア14%でトップとなった。以下、BYD22万9506台、BAIC16万251台、SAIC13万7666台、BMW12万8883台。
また、EVモデル出荷台数でもテスラのモデル3が30万75台と、同14%でトップ。以下、BAICの「EUシリーズ」が11万1047台、日産自動車の「リーフ」が6万9873台、BYDの「Yuan/S2 EV」が6万7839台、SAICの「Baojun Eシリーズ」が6万50台と続く。
そして、20年以降もテスラの独走は続くと見られる。人気のモデル3に加え、同年から新たに「モデルY」が投入されるからだ。航続距離の延長、加速性能や積載性の向上などにより、出荷台数は順調に伸びていくとみられている。
同社はフリーモント工場と上海工場を保有。前者はモデルS、モデルX、モデルYなどを生産し、年産49万台に対応。後者はモデル3を同15万台で生産しているほか、モデルYの生産を立ち上げ中だ。また今後、独ベルリンにも工場を新設し、モデル3やモデルYの生産を開始する予定だ。
以上、カギとなる3点を述べたが、CATLは中国・欧州に大規模工場を擁し、テスラを顧客とすることから成長性が高いと言える。ここで改めて顧客を列挙すると、中国のBAIC、SAIC、Yutong、Geely、King Long Motor、CRRCなど、欧州のBMW、VW、ダイムラー、ボルボ、ボッシュなど、日本のトヨタ、ホンダ、日産自動車、北米のテスラ。このほか、北米のGMも検討中とのことだ。
前述の自動車メーカーで近く出荷が開始されるとみられているのがBMWとテスラ。BMWはEV「iX3」に搭載する見込み。出荷先は中国および欧州で、中国ではブリリアンス・オートとの合弁会社であるBMWブリリアンス・オートモーティブを通じて製造・販売していく。また、欧州ではCATL初の海外工場である独チューリンゲン工場から供給する予定で、BMWが同工場の最初の顧客となる。
テスラはモデル3で採用するが、将来的にはモデルYでも搭載する考え。また、当初は中国向けが中心で、同社の上海工場に供給される。一方、将来的にはCATLのチューリンゲン工場からテスラのベルリン工場に供給していく可能性もあるという。
生産能力を大幅拡大
CATLはこうした需要増加に対応するため、生産能力を大幅に拡大する計画だ。先述のように同社は中国の寧徳、溧陽、宜賓、西寧や、ドイツの独チューリンゲンなどに工場を持つ。このうち、寧徳で年産16GWh分、溧陽で同24GWh分を増強するほか、宜賓で同12GWh分の工場を新設する。それぞれ今後2~3年以内に量産を開始する。投資額はトータルで160億元(約2500億円)。
さらに、100億元(約1500億円)を投じて寧徳に新工場を建設する。同45GWhに対応し、21年以降に量産を開始する計画だ。
LG化学と一騎打ち
一方で、CATLの強力なライバルとなるのがLG化学。同社は中国および欧州に工場を保有し、かつ前述以外にCATLと同様テスラやボルボを顧客としている。テスラとは19年に供給契約を締結し、同年末から供給を開始。20年1~3月期におけるEV向け車載用LiBで世界トップとなった(SNEリサーチ調べ)。また、中国においては20年で終了する予定だった補助金制度が2年延長され、かつ海外LiBメーカーにも適用されることになったことが追い風となっている。
最後に、テスラに対して1社供給を行ってきたパナソニックだが、CATLとLG化学が加わったことで逆風となっている感がある。このほど、テスラと3年間(20年4月~23年3月)の供給契約を締結したが、その後は不透明となっている。加えて、大連工場を保有するものの、中国・北米におけるHV向けが中心となっている。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也
まとめにかえて
CATLに加えて、記事にもあるとおりLG化学の存在感も車載電池分野では高まっている印象です。大手顧客との供給契約を相次いで結び、業容拡大を進めています、一方で、気になるのがパナソニックの動向です。テスラのパートナーシップにより、車載電池市場で一躍主要プレーヤーに踊り出始めましたが、テスラとの蜜月関係にも暗雲が垂れ込め始めています。
電子デバイス産業新聞