まずは、一帯一路によって多額の資金援助を受けているという背景がある。ラオスやカンボジア、ミャンマーやスリランカ、パキスタン、モザンビークやザンビアなどは近年多額の援助を中国から受け、それによってインフラ整備や都市化を進めている。

そのため国家安全維持法がこれだけ大きな問題となっても中国に異を唱えにくく、援助金の減額や停止などが脳裏にチラつくなど、こういった国々にとっては大きな政治的プレッシャーとなる。

また、エジプトやサウジアラビア、パキスタンやイラン、北朝鮮など権威主義的、強権的な体制の国は、北京と同じように反政府勢力の問題を抱えているという背景もある。

対テロ戦争の際、中国は新疆ウイグルの問題をグローバルなイスラム過激派の問題と関連づけようとしたが、反政府的なイスラム過激派を抱えるエジプトやパキスタンなどは、同じような境遇にあるとして中国を支持する狙いもある。

さらには、多額の資金援助も影響しているかも知れないが、中東やアフリカの国々は、そもそも香港情勢への関心や興味が薄く、それほど深刻な問題と捉えていないという背景もある。

我々日本人は、当然ながら周辺各国の問題への関心は強いが、アフリカや中南米で起こっていることをどれだけ知っているだろうか。それと同じである。

日本の安全保障に戦略的な取り組みを

おそらく、これ以外にも各国にはそれぞれの事情があることだろう。しかし、我々日本人にとって重要なのは、日本を中心に世界地図を眺めず、客観的視点に立って日本を考えることだ。

国家安全維持法の是非を検討することはとても重要だが、世界にはさまざまな見方が存在する。そういう多極化した社会で、どう日本の安全や国益を守っていくかという戦略的な姿勢が今後もっと必要だと考える。

和田 大樹