この記事の読みどころ
- 地球環境問題への意識の高まり等から、世界的に自転車市場が拡大しています。特に、高級スポーツタイプが著しく伸びています。
- 世界最大規模の自転車部品メーカーであるシマノは、市場拡大等を背景に好業績が続き、2015年12月期は4期連続の最高益を達成しました。
- しかし、円高とスポーツタイプ車の市場減速により、2016年の上期業績は大幅減益を余儀なくされました。在庫調整の長期化が心配されています。
拡大が続く世界の自転車市場
地球環境への配慮が注目されてきた近年、世界中で大きく伸びている乗り物が自転車です。
自転車市場も、2008年秋に発生したリーマンショックの影響を受けて、いったんは落ち込みました。しかし、燃料価格の上昇、健康志向の高まり等に加え、地球環境への配慮が進んだ結果、現在は全世界で年間1億3,000万台以上(推定値)の自転車が生産されています。なお、自動車の年間生産台数は約9,000万台程度です。
伸長著しい高級スポーツタイプの自転車市場
世界の自転車市場が拡大する中、特に伸長著しいのが高級スポーツタイプとMTB(マウンテンバイク)です。高級スポーツタイプのイメージとしては、ツール・ド・フランス等の競技大会で見られるような自転車です。
スポーツタイプ車の市場は、欧州や中国で急速に拡大しています。通称“ママチャリ”が多い日本では依然として少数派ですが、着実に存在感を高めています。
先日、自民党の谷垣禎一幹事長が趣味のサイクリング中に事故を起こし、今現在も入院中です。谷垣氏は大の自転車好きで有名ですが、その“愛車”が高級スポーツタイプ車です。今回の事故の詳細は不明ですが、スポーツタイプ車ならば相当なスピードが出ていたと考えられ、軽症でないことも納得できます。早期の回復をお祈りする次第です。
「自転車業界のインテル」と称されるシマノの圧倒的な存在感
こうした自転車市場の拡大を背景に、2015年12月期に4期連続の最高益更新を達成したのが、自転車部品メーカーのシマノ(7309)です。自転車が趣味の方には説明不要の企業ですが、多くの人には馴染みがないかもしれません。
実は、シマノの自転車部品(変速機、ブレーキ、ハブ等のコンポーネント)は、高価格スポーツタイプやMTB、中・高級普及タイプ等で圧倒的な強みを持っており、このセグメントでの世界シェアは80%以上と推測されています。
一般消費者だけでなく、多くのプロ競技選手にとっても、シマノの部品は必要不可欠です。シマノが「自転車業界のインテル」と称される由縁がここにあります。
輸送用機器セクターでは群を抜く高い利益率
昨年まで、シマノの業績は絶好調でした。利益の大半を稼ぎ出す自転車部品事業が、市場拡大を背景に伸長したからです。他の業界で見られるような熾烈な価格競争もありません。また、円安進行も追い風でした。
2015年12月期の売上高営業利益率は22%超となり、輸送用機器セクターとしては圧倒的な高さを誇っています。
こうした業績拡大が評価され、2015年10月には株価が上場来高値の20,200円を付けました。値嵩株としては流動性がやや低いものの、日本を代表する主力株の1つになったと言えましょう。世界中の投資家が注目していることは間違いありません。
自転車市場の減速に伴う在庫調整が当面のリスク要因
しかし、2016年に入ってから様相は一転しています。年初からの円高進行に加え、高級スポーツタイプの自転車市場が減速し始めたからです。
7月26日に発表した上期決算は、売上高は対前年同期比▲15%減、営業利益も同▲25%減へと落ち込みました。また、在庫調整の長期化などから、通期業績予想を大幅に下方修正しています。それでも、営業利益率は21%を維持する見込みであることからも、高収益体質を伺うことができると言えましょう。
しかし、円高影響のみならず、スポーツタイプを始めとする自転車市場の減速は気がかり材料です。不況に強いと言われる自転車需要が、今後どのように盛り返していくのか注視すると同時に、円安の追い風がなくなったシマノの収益体質にも注目したいと思います。
LIMO編集部