エコノミストの大半は、インドの国内総生産(GDP)成長率が2020年度(2020年4月-2021年3月)には実質でマイナスになると予測している。その理由が、国内経済の予想以上の低迷と世界経済の停滞であることは言うまでもない。ただし、2021年度の成長率は、前年度の大きな落ち込みの反動もあり、力強い回復が予想される。

大手格付会社は6月、インド経済について悲観的な見方を相次いで発表した。ムーディーズ・インベスターズ・サービス(以下、ムーディーズ)は、インド国債の格付けをジャンク債(投機的格付債券)まであと1段階に迫る「Baa3」に引き下げた。これで、主要格付会社による格付けの足並みが揃ったことになる。

ムーディーズは、格下げの理由として、景気低迷の長期化、政府債務の増加、国内金融システムの脆弱性、コロナ禍による信用面での脆弱性の高まりを挙げた。前回(2017年)の格付け変更では、モディ政権が進める改革が評価されて「Baa3」から「Baa2」に格付けが引き上げられていた。

ムーディーズによる格下げに続いて、フィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)はインド国債の格付の見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。同時に、2020年度の実質GDP成長率は感染拡大と都市封鎖の影響を勘案し、-5%程度になるとの見通しも明らかにした。

フィッチはインド国債の格付については、投資適格の最下位である「BBB-」に据え置いた。また、S&Pグローバル・レーティングは、現状の格付けの「BBB-」と見通しの「安定的」を据え置くと発表した。

投資家は、ムーディーズによる格下げとフィッチによる格付け見通しの引き下げを冷静に受け止めた。投資家の間では、2020年後半には「ポスト・コロナ」の景気回復が期待できるとして、近い将来にインド国債の一段の格下げはないとの見方が広がっている。

経済成長率の低下傾向が中期的に続く場合は、インドの格付けがさらに見直される可能性も出てこよう。そうなれば、投資資金の流出、期間プレミアム(債券の償還期間の長さに伴う上乗せ金利)の上昇、ドル資金調達コストの上昇、グローバル債券インデックスに占めるインド債券の構成比率の決定の先送りなどが生じることが考えられる。