本記事の3つのポイント

  •  新型コロナによって、触れずに画面などを操作する新たなニーズが浮上。触れずに手・指の位置やジェスチャーに応じた操作が可能なタッチパネルが各社から提案されている
  •  さらにロボットの「非接触化」も進展。タッチパネルによる入力に代わって、スマートスピーカーやコミュニケーションロボットを経由した音声などによる非接触な方法が登場
  •  ホバーディスプレーのような「タッチしない」特徴はこれまで出口戦略が課題とされていたが、新型コロナを契機に応用展開が一気に進む可能性

 

 新型コロナウイルスの流行により、世界中の経済活動が停止したかに見えたが、それによって生まれてきたニーズもあった。「お家時間」が長くなったことで、オンラインで視聴する映画やドラマなどの需要が増大し、YouTubeやHulu、Netflixといった動画配信サービスの需要は一気に高まった。また、物流関連のロボット化や、リモート操作を可能にするツールなどに注目が集まったほか、マスクや除菌関連など、衛生面でのニーズが一層高まった。要因がウイルスであることで、手に触れるモノに対する警戒感が顕在化していったようだ。

“タッチしないタッチパネル”を提案

 猛威を振るうコロナウイルスにより、他人が触ったものに対する警戒感、嫌悪感が世の中で高まるなか、アルプスアルパイン㈱では、「衛生面に配慮したタッチレス操作パネルを新提案」と題し、“タッチしないタッチパネル”の製品化についてリリース発表した。医療や介護現場、公共施設などにおける、触れない、触りたくないというニーズに応えるという。

 “タッチしないタッチパネル”の製品化の背景としては、小型・高機能化を目的に、スマートフォンやカーナビ、デジタル家電やセキュリティー機器などの多くのデバイスの入力操作において、従来のスイッチからタッチパネルへの置き換えが進んだことで、パネルに触れて操作することに対する物理的・心理的な抵抗感を覚えるシーンが多く顕在化してきたことがある。

 そこで同社では、独自の高感度静電センサーを用いて、タッチパネルの利点を生かしつつ抵抗感を減らし、安心・安全で快適な操作を叶えるタッチパネルを開発。パネルから10cm離れた位置にある手の存在を検知し、5cmまで近づくと手の位置検知が可能となり、3cmまで近づくと指の位置まで把握することができる。

 この一連の動作における手の接近検知も可能で、さらに、検出したデータを独自開発のアルゴリズムで処理することで、手・指の位置やジェスチャーに応じた、多彩な操作を提供する。また、直接パネルに触れて操作したいニーズを考慮し、“タッチする”操作にも対応する。

 すでに発表したデモ機においては、手や指の距離や、操作内容とディスプレー表示を連動させたシステム設計に加え、音によるフィードバックを組み合わせることで、初めて使用する人も感覚的に操作することができたという。同社では、2021年の製品展開を目指し、医療・介護現場や公共交通機関など、衛生面の配慮が必要となる様々な市場でのマーケティング活動を強化し、市場調査を進めていくとしている。

 このほか直近では、まさにこの“タッチしない”を体現した製品もリリースされている。カフェロボットやロボット居酒屋など、ロボットによる無人化調理システムの開発・運用を手がける㈱QBIT Roboticsでは、従来システムにおいても感染リスクを低減する店舗を提供していたが、新型コロナウイルス流行をきっかけに、さらにロボットの「非接触化」を強化。タッチパネルによるオーダーの代わりに、スマートスピーカーやコミュニケーションロボットを経由した音声などによる非接触な方法で、オーダーができるようにした。

 しかし、“タッチしないタッチパネル”の提案は、コロナ以前からあった。いわゆる「ホバー」や「ジェスチャー」操作と呼ばれるもので、さらに究極には、前述のとおり、少しも手を使わない「音声認識」が代替として提案されることもあった。

 また、衛生面のニーズからは、常にディスプレー画面に触れて操作するスマホにおいて、表面に防汚対策や抗菌、防指紋処理などがコーティングされたガラスやフィルムなどが開発され、すでに採用されてきている。

産業用途では非タッチ操作ニーズ

 タッチパネルは、ディスプレー面に指が触れた時の微弱な電気を感知することで、直感的な画像操作を可能にする静電容量式が07年にiPhoneで採用され、その後スマホとともにコンシューマー市場で普及すると、産業用途においても同様の操作が望まれるようになっていった。産業用途の静電容量式タッチパネルには、手袋をしたまま操作できることや、ホバー操作などの特殊用途での要求があり、13年には、産業向けタッチパネルを手がけるメーカーが、空中ジェスチャー操作のための近接・ホバー対応タッチコントローラーをリリースしている。

 一方で、コンシューマー市場においては、スマホの音声認識の向上は図られたものの、ホバーやジェスチャーといった非タッチ操作への要求は高まっていない。近年、スマホにおいては、認証の観点から新しいセンサー方式やレーザーが試されており、これらを使うことでスマホのオン/オフやアプリ起動操作などができる端末も登場しているが、基本的にごく近距離で自分しか触らないものに対して、非タッチ操作が新しさ以外の機能を提供できるかどうかは疑問視されている段階だ。

ホバー技術を活かす出口戦略は

 19年12月に東京ビッグサイトで開催された展示会では、ジャパンディスプレイ㈱(JDI)がホバー操作可能なディスプレーを披露。指ならば5cm、手の平ならば10cm程度の距離からの操作が可能で、医療現場などの直接画面に触れられない用途において、ニーズを開拓していくと説明した。

 ホバー機能は、静電容量式タッチセンサーの感度を上げることと、それを制御できるコントローラーICがあれば実現可能だ。技術的には、前述のアルプスアルパインのように、従来タッチパネルを製造しているメーカーであれば、さほど開発や作り込みに困難はない。JDIもその1社であり、ソフトウエアなどで製品化における細かなチューニングは必要であるものの、「もっとも頭を悩ますのが、出口の部分だ」(説明員)という。開発や製品化といった入り口部分は仕上げ段階にあるが、出口たる市場ニーズが見えないため、市場展開がなかなか進まないのだという。

スイッチやダイヤルのない近未来車

 しかしながら、今回のコロナウイルスの流行をきっかけに、“タッチしない”ニーズがこれまでになく盛り上がっていくことは必至だろう。タッチ(しない)パネルは、新しい開発ステージに入ったのではないか。これまでに出口戦略を固められなかったホバータッチディスプレーも、今後は日の目を見る機会が増えていくだろう。

 さらに、コロナによる衛生面からの非タッチニーズの台頭のほかにも、自動化が進められている自動車において、非タッチ入力操作はキーワードとなっている。

 近年の自動車においては、「CASE(Connectivity、Autonomas、Shared、Electric)」や「MaaS(Mobility as a Service)」をコンセプトに、新型車やコンセプトカーの構想の具体化を図っている。これらの(近)未来車では、通信機能の高まりや自動運転化によって車内が部屋のようになっていく。そこで重視されるのがHMI(Human Machine Interface)技術だ。

 従来車にあるような、スイッチやダイヤルといったメカニカルな入力方式は、すでにタッチセンサーによる置き換えが進められている。将来の自動車では、さらにこういったインターフェースの進化が求められ、手を振ったり、叩いたりする動きで作動するような車内環境が想定されている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

まとめにかえて

 新型コロナによって、様々な需要が喚起され新技術・新市場が立ち上がっておりますが、今回取り上げたタッチレスのパネル技術もその1つです。これまで以上に高感度なタッチセンサーが求められるようになります。また、音声やジェスチャーといった手法で入力を行うシーンも格段に増えることが予想されます。タッチパネルの技術はスマートフォンやタブレットなど日常の多くに組み込まれていますが、その使い方も新型コロナを契機に大きく変わる可能性がありそうです。

電子デバイス産業新聞