就職難や失業、生活困窮などに対して、従来から「自己責任」を問う声は少なくありません。もちろん、個別具体的には、そう言わざるを得ないケースもあるでしょう。しかしながら、その一方で、そうとは言い切れないケースも多数あります。
そこで今回は、自己責任論とは一線を画した「インクルージョン(Inclusion)」の考え方をご紹介いたします。
1. 世界各国で高まる失業率 日本の失業と就職難
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響により、世界各国で失業率が高まっています。
直近の先進国の状況を見ても、米国は、4月の失業率が14.7%、5月は13.3%と若干の改善傾向はあるものの依然として高い水準にあります。ドイツでも、4月の失業率が5.8%、5月は6.3%と2015年以来の高水準となっており、失業者数は287万5000人に上っています。
そして日本でも、総務省統計局の労働力調査によると、4月の失業率は約2.6%と2017年12月以来の高水準を記録しています。同調査によると、就業者数と雇用者数は約7年ぶりに減少に転じ、完全失業者数は3ヵ月連続増の189万人となっており、状況は悪化しつつあります。
業績を悲観し、人員削減に舵をきる大手企業も散見されます。リストラではなく新卒採用抑制による人件費の調整をする企業も出てきており、新卒内定率は前年より低下、人手不足を背景に続いていた「売り手市場」から潮目が変わりつつあるようです。
2.「働きたいのに働けない」 生活苦に陥る人々
新卒でなくても、就職は難化する傾向にあります。たとえば、就職氷河期世代と呼ばれる36歳~45歳頃の方、職歴に空白期間がある方、子育てや介護中の方、高齢の方など、今般のコロナショック以前から相対的に就職が難しい状況にあるとして社会問題化していましたが、今後は企業の業績悪化に伴い、さらに困難な状況に陥る可能性は否定できません。
「働きたいのに働けない」方々に対して、日本では以前から「自己責任論」を説く風潮が少なからずあります。アルバイトや派遣などの労働問題に加えて、子育てや離婚などの家庭の問題、うつ病や自殺などの精神的病の問題が議論される際にも、「自己責任論」はしばしば登場します。
「自己責任論」は、すべての人が平等に選択肢を与えられていることを前提とした主張ですが、社会的に弱い立場にある方々は、残念ながら一定以上の選択肢があるとは言い難いケースが少なくありません。