暫定決算の発表翌日に大幅高となったシーゲイト

2016年7月12日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均が約1年2か月ぶりに過去最高値を更新しました。

こうした中で注目されたのが、ダウの上昇率(前日比+0.7%上昇)を大幅に上回る同+22%上昇になったハードディスク駆動装置(以下、HDD)大手のシーゲイト・テクノロジー(以下、シーゲイト)の株価の動きでした。

シーゲイトは前日の11日に、2016年6月期Q4(2016年4-6月期)の暫定決算および全従業員の14%にあたる6,500人の人員削減を行うことを発表しています(正式な決算は8月2日に発表予定)。

市場全体が高値圏にある時には、出遅れ銘柄に注目が集まることは日本でもしばしば見られる現象ですが、もう少し詳しく、その背景を考えてみたいと思います。

なぜ、大幅高になったのか

シーゲイトの12日の株価が、市場全体を大幅に上回る上昇となった背景としては以下の3点が考えられます。

第1は、Q4の実績が会社側のガイダンス(会社予想)や市場コンセンサスを上回ったことです。Q4の売上高は26.5億ドルと前年同期比では約10%の減収ですが、ガイダンスの23億ドルを上回りました。

クライアント/コンシューマ向けは、パソコン市場の縮小傾向が続いていることやフラッシュメモリを使ったSSDへの置き換えが進んでいるため苦戦が続いていますが、エンタープライズ向けはデータセンターなどで使われる大容量タイプが好調に推移したことが寄与した模様です。

第2は、リストラの実施による採算性の改善への期待です。シーゲイトは、今回のリストラにより粗利益率を大きく改善できると発表しています。

第3は、株価指標面で割安感が強かったためです。大幅上昇前日の11日の株価は年初来で3割強下落した水準にあり、配当利回りは10%強に達していました。足元の業績好転とリストラのアナウンスにより、割安感と株価の出遅れ感に着目した買いが一気に集まったと推定されます。

今後の注目点

最後に、今後のシーゲイトの動向を考えるための注目ポイントを整理したいと思います。

まず、シーゲイトは今回のリストラを経て、一段とエンタープライズ向けへの集中を進めることができるのかという点です。

各種調査機関や関連メーカーの見方を総合すると、クライアント/コンシューマ向けは減少傾向が継続する一方、エンタープライズ向けは引き続き伸びるという見方がコンセンサスになっています。また、エンタープライズ向けについては、HDD1台あたりのデータ格納容量の増大や高速化等に伴い、一段と高付加価値化が進む見込みです。

そのため、こうした市場の変化に対応できるかが今後の業績のカギを握ると考えられます。

次に、シェアを拡大できるかという点です。おおまかに言って、現在のHDD市場シェアは1位がウエスタンデジタル、2位がシーゲイトで、この両者で8割強を占め、残りが東芝(6502)となっています。

高成長が期待できない市場ですので、新規参入企業が現れる可能性はほぼないと言ってよいと思いますが、今後、この寡占化された市場の中で、いかにしてシェアを高めていくかに注目したいと思います。

最後は、フラッシュメモリへの置き換えがパソコン用だけではなく、エンタープライズ分野でも加速しないかを注視したいと思います。

2016年7月に開催された東芝のIR説明会では、フラッシュメモリの1ビットあたりの単価がHDDのそれを下回る時期は2023年以降とコメントしていました。こうしたことから、HDDの価格面での優位性が直ちに損なわれることはないにせよ、それほど遠くない将来に、そうした時期が訪れることは間違いなさそうです。

ウエスタンデジタルはフラッシュメモリ専業で、かつ東芝の事業パートナーでもあるサンディスクを買収し傘下に取り込んでいます。このため、HDDがフラッシュメモリに対して価格優位性を失った場合に、東芝やウエスタンデジタルは、その分をフラッシュメモリで補うことができます。

これに対してフラッシュメモリ事業を持たないシーゲイトはどのように対処していくのか? おそらく、シーゲイトを長期投資の対象にするためには、この問題を探ることが最も重要ではないかと考えられます。

和泉 美治