TFT液晶パネルの価格が、また下がり始めた。4月の為替レートは前月比でわずかな円安に振れたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってTFT液晶パネルの需要減速が強く見込まれるようになり、特にテレビ用の需要が大きく下ぶれした。
2020年当初、韓国FPDメーカーの生産撤退に伴ってTFT液晶パネルの価格は上期いっぱい値上がりが続き、これが液晶パネルメーカーの業績回復につながるとの見方がなされていたが、コロナ禍で需要環境が一変しており、特にテレビ用は「年内に再び価格上昇を期待するのは難しい」との見方もなされるようになってきた。
中国に続き欧米でもテレビの需要減少
4月の32インチ液晶パネルの価格は前月比で6%値下がりし、再び4000円台を割る水準となった。19年11月を底に、その後は4カ月連続で上昇を続けてきたが、43インチや55インチ、65インチなどテレビ用は総じて値下がりに転じた。
調査会社Display Supply Chain Consultants(DSCC)は、4月に入って、20年の世界テレビ市場の予測を下方修正し、前年比10%減の2.33億台に落ち込むとの予想を発表した。1月時点では同2%増を見込んでいたが、新型コロナウイルスの感染が欧米で拡大し、世界需要が大きく冷え込むことを織り込んだ。
20年1~3月期は世界で前年同期比15%減になると見込んでおり、なかでも中国は同27%減(2月単独では45%減)と大きな減少を想定する。4~6月期は、中国が前年同期比5%減まで回復するが、欧米は同40%減、世界では同19%減を見込む。外出規制緩和の延期次第でさらに減少する可能性があると指摘している。
テレビの出荷台数10%減という予測に基づき、テレビ以外の他用途も含むFPD(Flat Panel Display)市場全体は、面積で前年比6%減、金額で同8%減になると試算した。
また、調査会社Informa Techも4~6月期のテレビメーカーのパネル購買量が15~20%落ちるとみている。
韓国メーカーの能力削減も追いつかず
19年のテレビ用TFT液晶パネルの深刻な供給過剰、そしてそれに伴う値下がりに対応するため、この間、韓国のFPDメーカーはテレビ用液晶パネルの生産から撤退することを相次いで表明。FPD業界では、これがテレビ用TFT液晶パネルの需給のバランス化と価格上昇につながると考えてきた。
実際、年末までに韓国でのテレビ用TFT液晶パネルの生産をすべて停止することを表明済みであるLGディスプレー(LGD)の生産能力は、19年10~12月期に前四半期比18%減、20年1~3月期には前四半期比8%減と、計画どおりに生産能力を削減してきた。
また、この間にサムスンディスプレーもテレビ用液晶パネルからの撤退を表明。韓国国内の第7世代と第8.5Gの工場を閉鎖し、中国蘇州の第8.5世代合弁工場も生産を停止する。赤字が続いていた液晶事業から撤退し、中小型の有機ELとテレビ用に開発中の大型有機EL「QD-OLED」などの次世代ディスプレーだけに事業を絞り込む考えだ。
しかし、韓国2社が今後も能力削減を進めても、新型コロナウイルスによる需要減を相殺するには足りず、年内に再び価格上昇を期待するのは難しいかもしれない。東京オリンピック・パラリンピック、サッカーの欧州選手権(UEFA EURO 2020)や南米選手権(コパ・アメリカ)といった、テレビの需要喚起につながる大型スポーツイベントが軒並み延期となった影響は、テレビメーカーの販売戦略に大きな見直しを迫っている。
IT用は堅調な需要継続
しかし一方で、在宅勤務や巣ごもり消費の増加でIT用液晶パネルの需要は堅調が続いており、大きな値崩れはなく横ばいで推移している。
LGDは、パソコンなどIT用パネルの需要が旺盛なため、韓国の第8.5世代工場に残っている生産能力の大半をIT用に振り向けていく。4~6月期はIT用の需要が前年同期比で2~3割増加すると想定している。
また、液晶バックライト大手の台湾コアトロニックは、4~6月期にバックライトの出荷台数が前年四半期比で20%増加する見通しであることを明らかにした。在宅業務や教育向けの需要増でノートPCの出荷が3割以上増える見通しであるほか、モニター向けも10%弱の増加が見込めるという。ノートPC向けの需要がきわめて旺盛で、出荷台数は一般的なピークシーズンである7~9月期と同レベルになる見込み。一方で、テレビ向けの出荷は、海外顧客の工場の一時的なシャットダウンと販売低迷によって10~15%減少する見通しだと話している。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏