この記事の読みどころ
- 販売低迷が続く国内新車販売では、排気量660ccの軽自動車の不振が深刻で、18か月連続の前年割れです。
- 2015年4月以降の販売分に適用された軽自動車税の引き上げが、大きな要因と考えられます。
- 値下げ実施を待つ消費者と、需要回復を待つ軽自動車メーカーの我慢比べ状態になっているとも考えられます。
消費再増税の先送りで駆け込み需要は発生せず
消費再増税(現行の8%⇒10%へ)の延期が正式決定したことで、今年終盤から2017年3月末にかけて見込まれていた駆け込み需要の発生の可能性はほぼゼロになりました。
代表的な高級耐久消費財である自動車も例外ではありません。自動車メーカー各社は、消費増税後の大きな反動減少が起きることを懸念しつつも、この駆け込み需要商戦に期待していた部分は小さくなかったと言えます。特に、円高の影響を少しでも和らげるには、この国内新車販売の駆け込み需要商戦は、一過性とはいえ、大きな期待材料であったことは否定できません。
低迷が続く国内新車販売、軽自動車の不振が深刻化
そのような環境の下、6月の国内新車販売の実績が発表されましたが、対前年同月比で▲5%減となる厳しい結果でした。前年割れは2か月連続です。その内訳は、販売構成比の約68%を占める「登録車」が同+3%増と堅調な一方、同じく販売構成比の約32%を占める「軽自動車」が同▲18%減となっており、軽自動車の販売不振が深刻です。
軽自動車の販売不振と聞くと、三菱自動車による一連の燃費不正問題が影響したと考えがちです。確かに、4月下旬にその不正問題が明らかになって以降、軽自動車の販売は落ち込んでいます(ちなみに、5月実績は同▲14%減でした)。
しかし、実際は、軽自動車の販売は2015年1月から18か月連続で前年割れが続いており、今回の問題発覚とは関係なく、需要は落ち込んでいました。1998年から需要拡大が続いてきた軽自動車は、ピーク時の販売構成比は46%まで上昇していました(現在は約32%)。その軽自動車市場に何が起きているのでしょうか?
消費増税よりも影響が大きい軽自動車税の引き上げ
軽自動車販売に変調が見られ始めたのは、まずは2014年4月の消費税増税(5%⇒8%へ)の時です。消費増税の影響は非常に大きかったと見られますが、これは登録車も同じであり、軽自動車に限ったことではありません。むしろ、軽自動車特有の要因としては、2015年4月から始まった軽自動車税の引き上げが大きいと考えられます。
軽自動車の魅力の一つが税金の安さです。自動車の保有者に課せられる自動車税は、登録車で排気量が2,000~2,500ccの場合が年間45,000円となっているのを始め、排気量別に29,500円~111,000円に分かれています。一方、排気量660ccの軽自動車は7,200円と非常に安くなっており、軽自動車を購入する消費者にとって非常に大きなメリットであることは言うまでもありません。
ところが、2015年4月以降に販売された軽自動車に対しては、その保有税(これを軽自動車税と言います)が+50%増の10,800円に引き上げられました(注:2015年3月販売分までは今後も7,200円据え置き)。額にして3,600円の増額です。これ以降、軽自動車の販売は低迷したままになっており、この軽自動車税の引き上げが大きく影響していると考えられます。
年間3,600円の負担増は想像以上に大きな影響
これを聞いて“たった3,600円上がって、そんなに影響が出るのか?”と訝る人も多いかもしれません。恐らく、そう考えた人の多くは、大都心に住むそれなりに所得のある方でしょう。
軽自動車の多くは、クルマが必要不可欠な地方都市で使われています。特に、中高齢の主婦を中心とした女性ユーザーが多いと見られています。実質所得がなかなか上がらない地方の消費者が、消費増税に加えて軽自動車税が引き上げられたことで、軽自動車への購買意欲が落ちていると考えるのが自然と思われます。
消費者と軽自動車メーカーの我慢比べに
また、賢い消費者は、これだけ需要が落ち込んだ軽自動車市場は、これから値下げ販売が行われることを期待している可能性もあります。家計を預かる金銭感覚の鋭いユーザーは、こうした好機を待っているとも考えられます。
現在の販売不振は、軽自動車メーカーと、こうした消費者との我慢比べと言えましょう。どちらが先にギブアップするのか、別の意味からも興味が尽きません。
LIMO編集部