一時的なショックだった英EU離脱の影響

早いもので、2016年6月24日の英EU離脱ショックから1週間以上が過ぎ、大荒れとなった株式市場も落ち着きを取り戻してきました。震源地であった英国のFTSE 100種総合株価指数(以下、FTSE)にいたっては、いち早く6月29日にショック直前(6月23日、以下同様)の水準を取戻し、7月1日の終値は年初比で+5%上昇した水準となっています。

また、米国の代表的株価指数であるS&P500(以下、S&P) も、7月1日の終値はほぼショック直前の水準に並び、年初比では+3%上昇した水準になっています。

このような数値を見ると、いったいあの騒ぎはなんだったのだろうという気がしてきます。

為替を考慮すると海外株式指数も日経平均と同様に大幅下落

ところが、上記の欧米株価指数を円建てベースで見ると、景色は一変します。FTSEの7月1日の終値は、ショック直前比では▲14%下落、年初比では▲23%下落です。S&Pも同様に、ショック直前比では▲3%下落、年初比では▲15%下落と、ショック前を回復しておらず、また、年初来で見ても大きく下落していることになります。

このように、円建てベースで見ると、つまり円高を考慮に入れると、大きなショックの後遺症が感じられることになります。

ちなみに、日経平均の7月1日の終値はショック直前比で▲3%下落、年初比では▲18%下落した水準にあり、これを円建てベースの米英の株価指数と比べると、あまり大差ないことになります。

円高による景況感や企業業績へのマイナス影響懸念が残る

円高の影響は株価指数だけではなく、今後の景況感や企業業績にもマイナス影響を与えることが懸念されます。

実際、日銀が7月1日に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回調査に比べて横ばいに留まったものの、想定為替レートが1ドル111円41銭であったため、市場の受け止め方は堅調という評価にはならず、むしろ先行き懸念が高まる結果となりました。

また、7月中旬以降から発表される2017年3月期第1四半期(4-6月期)の決算発表でも、輸出関連企業の想定レートは、1ドル110円前後ですので、想定為替レートの円高修正により業績が下方修正となる企業が続出する可能性も覚悟しておく必要がありそうです。

2018年3月期にROE10%の旗を降ろさなかったソニー

このような局面では輸出関連セクターを避け、円高で原材料や製品などの仕入れコストが低減する紙・パルプ、電力、外食、輸入商社に注目すべきというのが教科書的なセオリーとなります。

とはいえ、為替は正確に予測できるものではありませんし、円高が永遠に続くわけでもないので、売られ過ぎの輸出関連を拾うという視点は常に忘れないでおきたいと思います。

また、ソニーのように、輸出関連でも為替の影響が小さい銘柄もあることにも留意したいと思います。会社側によると、同社の場合、1円の円高による営業利益に対する影響額は、対ユーロでは▲55億円の減益要因であるものの、対ドルでは+50億円の増益要因になるとのことです。PS4が好調なゲーム事業などは海外への生産シフトにより、ドルについては円高メリットを享受できるためです。

こうしたことから、同社は英EU離脱ショック後の6月29日に開催された経営説明会でも2018年3月期にROE 10%以上、営業利益5,000億円以上という、これまで開示してきた経営数値目標を変更しませんでした。

円高を受け入れる心の余裕を持ちたい

6月24日直後のポンド急落を見て、離脱に投票した多くのイギリス人が後悔したとも伝えられています。一方で、日本では”円高=ネガティブ”という捉え方の経済記事が多いためか、あるいは国民性によるものなのか、自国通貨の上昇を過度に悲観的に見がちです。

もちろん、急速な円高は外貨建て預金や外貨建て投信を保有している方にとっては一時的にはつらい現実でしょうが、ドル建てベースの日経平均株価はショック直前比▲2%下落、年初比では▲4%下落に留まり、海外市場に比べて大健闘しているという現実も直視すべきでしょう。

過度な悲観論に惑わされずに、また、円高を受け入れる心の余裕を持ちながら、日本株の銘柄選別に臨みたいと思います。

 

LIMO編集部