金融資産市場の相場変動が大きくなっていることから、資産形成をしている人にとっては心落ち着かない状況かもしれません。これだけ大きな変動があると、「やはり投資には大きなリスクがあるんだな」とうろたえたり、躊躇(ちゅうちょ)したりするのはわからなくありません。

でもこうした時だからこそ、少し目線を変えて「投資のリスク」ではなく、「資産形成のリスク」とは何かを考えてみてください。

「資産形成のリスク」は「投資のリスク」とは違う

「投資のリスク」についてはよく議論されます。リスクは相場の変動幅のことで、数値としては収益率の分散度合いを示す「標準偏差」などを使って表すことが多いと思います。

その目線でみると、今回の株式相場の急落は明らかに大幅なマイナスの方への変動ですから、株式市場には大きな投資のリスクがあることを示しています。「やっぱり預金にしておけば良かった」という考えが頭をもたげてきます。

しかし、「資産形成のリスク」という視点でみると、全く違った感覚を覚えます。「資産形成」は「投資」とは違います。たとえば、“退職までに2000万円の資産を創る”と考えてみましょう。これはいわば資産形成ですから、投資をする「目標」と言い換えることもできます。

それに対して、「投資」そのものは手段です。株式投資、債券投資などその手段はいろいろありますが、投資そのものが目的になることはかなり例外的です。投資が資産形成を達成するための手段と考えると、預金も目標を達成する手段の一つだということが理解できます。

「資産形成のリスク」の視点で預金と投資を考えてみる

そこで、「資産形成」という目標が達成できるかどうかという視点で「リスク」を考えてみてください。

目標が達成できないことを「資産形成のリスク」と考えてみると、たとえば、今の金利水準の「預金」を使っている限り毎月の積立の金額では目標の金額に到達できない場合、預金の持つ「資産形成のリスク」は100%といえます。金利の水準が上がるか、積立額を増やすこと以外に達成する方法はありません。

これに対して、預金の代わりに「投資」という手段を使う場合を考えてみましょう。

たとえば、毎月積み立て投資を株式投資で行うとします。過去のデータを使って、その投資の成果の分析をしたところ50%の確率でその目標が達成できたとします。この場合には、目標が達成できる確率は50%で、できない確率は50%ですから、「資産形成のリスク」は50%と言うことができます。

「資産形成のリスク」でみると、預金よりも株式投資の方が低いということも言えるわけです。

もちろん、五分五分の確率では資産形成はできないと考えるなら、分散投資で「投資のリスク」を下げて、その分、積立額を増やすことも必要です。それによって、資産形成の達成確率を引き上げることが可能になります。

いずれにしても、「投資のリスク」ではなく、「資産形成のリスク」という考え方でみると、全く違った見方ができるものです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史