この記事の読みどころ

英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票は事前の予想と異なり離脱支持が残留支持を上回る結果となり、今後は英国のEU離脱を直視しなくてはならなくなりました。世界の各市場は大荒れの展開となり、報道等でも英国国民投票に関連して様々な分析やコメントが報道されています。しかし、流動性危機の証拠は(少なくとも現段階で)見られないものの、リーマンショックと比較されるなど違和感を覚えるコメントなども見られます。市場の変動が大きい今だからこそ、冷静な視点が必要と思います。

  • 短期的には当局の市場への対応がポイント
  • 中期的には問題の震源地である英国とEUとの間で新条約についてどのような交渉が行われるかに注目
  • 英国以外ではEU諸国への影響も懸念される
  • 今後の展開にもよるが、経済ファンダメンタルズに回帰する動きも想定される

英国国民投票:予想外、残留派優位との観測に反し離脱派が勝利、英国はEU離脱へ

英国で2016年6月23日に実施された欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の開票結果は、開票率100%で離脱支持が51.9%、残留支持が48.1%(ロイターの報道による)となりました。各地区の投票結果が報道されるたびに離脱を支持する票が残留を上回り、市場では株式や商品が下落するなど影響が広がりました。

どこに注目すべきか:協調介入、リスボン条約50条、貿易

英国国民投票は予想外の結果となり、市場は英国のEU離脱を直視しなくてはならなくなりました。今後の展開で注目すべきポイントは以下の通りと見ています。

まず、短期的には市場の動揺への対応です。鍵となるのは国民投票の結果を受け変動する市場の動揺を抑えるための、流動性供給などの検討です。

たとえば、リスク回避によりドル不足が懸念されるならば、日本、英国、ユーロ圏、米国、カナダ、スイスの各中央銀行(6中銀)が2011年の欧州債務危機時に合意したドル資金供給の協調策の活用などが考えられます。予想外のイベント後だけに、為替や株価は経済ファンダメンタルズ(基礎的条件)とかけ離れた水準となっている可能性もあります。各国協調しての為替介入も含め、早急な対応が打たれるかに注目しています。

2点目は中期的かつ今後最も大切となると考えられるポイントで、英国のEU離脱の手続きです。

EUの基本条約であるリスボン条約の第50条には、加盟国は憲法上の要請に従いEUを自主脱退することが可能であると規定しています。したがって、国民投票の結果を受け英国がEUを離脱するという意味は、英国が第50条を提出することにより始まります。同時に、英国にとってはEUを正式に脱退するまでの2年間の移行期間が始まるということでもあります。この移行期間内に英国がEUとの新協定をまとめられるか注目です。

新協定にはノルウェー型(今のEUと英国の関係に近い)やカナダ型(EUとの包括協定で英国のEUに対する義務が少ない)、もしくはスイス型(中間的性格)などがあり、何らかの新協定の合意を目指す展開が想定されます。仮に移行期間内に合意に至らない場合、英国がEUに対して獲得していた低い税率や金融免許など、EU市場での権限を失うからです(ただしEU諸国が合意すれば延期は可能)。

もっとも、合意に至ったとしても、合意内容によっては英国のEUへのアクセスは低下、ビジネスに大きな制約となる可能性もあると見られます。特にロンドンのシティはEUへの窓口として金融ビジネスが盛んであっただけに、香港市場で英国金融機関の株式が暴落したのも英国のビジネス環境悪化への懸念が背景のひとつの要因だったと見られます。

離脱支持派は、EU離脱でボンド安となれば輸出改善に期待を示すなど英国経済への影響について楽観的な印象ですが、離脱後のシナリオが明確でない中、想定に甘さも感じられます。

最後に、英国以外への影響にも注意が必要です。

まず、英国に並んで影響が懸念されるのは、通貨ユーロの下落を見ても、ユーロ圏への影響です。英国とユーロ圏は貿易などを通じて関係が深いだけに、経済への影響が懸念されます。また、ユーロ圏の土台となっているEUは、今回の国民投票で結束が問われていますが、EUの官僚的制度を批判する政党もEU各国で台頭しており、EU離脱がドミノ式に拡大するリスクにも注意が必要です。

日本は株式市場が大幅に下落するなど影響が見られました。ただし、英国と日本の貿易を通じた経済への影響は、ユーロ圏と英国の関係に比べれば低いと思われます。日本はむしろ急激な円高による株価への影響が懸念されます。また国民投票の開票が進んでいる中、先進国で唯一市場が開いていたという不運な面もあるかもしれません。

予想外のイベントであっただけに市場は当面不安定な動きが想定されます。英国のEU離脱プロセスにおけるEUとの交渉が想定以上に長引くなどした場合には、最悪、混乱が長引く可能性も想定されます。ただし通常の離脱プロセスに止まるならば、徐々に経済状況を反映した動きへと回帰するものと見られます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文