なぜ株式市場で宇宙機器産業が注目されるのか
宇宙ビジネスは、①宇宙機器産業(ロケット、衛星、地上局などの衛星機器など)、②衛星通信・放送サービス、③宇宙関連民生機器(GPS受信機、カーナビなど)、④宇宙利用産業(高精度測量ビジネス、衛星データ利用ビジネスなど)に大別されます。
市場規模は世界全体で20兆円程度、うち日本は6兆円程度とされており、最近では米国を中心にベンチャー企業の参入も活発な市場です。今回は、上記の4分類のうち、①宇宙機器産業を中心に投資アイデアを考えてみたいと思います。
まず、日本と米国における宇宙機器産業の市場推移を見ると、日本市場は米国の約15分の1に過ぎません(日本:約3,000億円、米国:5兆円)。また、米国市場が長期にわたってほぼ右肩上がりで成長してきたのとは対照的に、日本市場は90年代半ばにピークを付けた後、2000年代に入ってからは低迷が続いており、未だにピークレベルまで回復していないことが分かります。
そこで、これまで低迷してきた背景と、この状態が変化する可能性が出始めたことをまとめてみました。
まず、低迷の背景を理解するためには、日米貿易摩擦が激しさを増していた1990年に結ばれた「日米衛星調達合意」の影響を理解する必要があります。この合意により、実用衛星は原則として国際入札となったことなどから、国内産業の競争力が十分に育たなかったことが指摘できます。
合意が締結された当時、まだ競争力が弱かった日本メーカーは、国内の実用衛星の供給を米国衛星メーカーに譲る代わりに、研究目的中心の衛星開発に軸足を置かざるを得なかったのです。こうした期間が長く続いたため、三菱重工(7011)、三菱電機(6503)、NEC(6701)など、日本の衛星システムメーカーの事業領域は最近まで国内中心(官需向け)であり、海外はコンポーネント販売に限定されていました。
こうした状態を変えるきっかけになったのが、2008年に制定された「宇宙基本法」であり、さらにそれを発展させるために2015年に策定された新「宇宙基本計画」です。世界を見渡すと宇宙産業は非常に巨大であり、また、付加価値が高い産業でもあります。そのため、国家戦略として注力することの重要性が認識され始めたことが、こうした新たな動きの背景にあるのです。
新計画では、今後10年間で最大45基の衛星を打ち上げる、小型イプシロンエンジンを搭載した新型ロケットを開発する、既存のGPSシステムよりも精度の高い位置計測が可能となる準天頂衛星を2023年度までに7基に増設する(現状は1基)などの具体策が盛り込まれ、現在、この法案に沿って実行プランが運営されています。
また、政府は宇宙事業を「質の高いインフラ輸出」の一翼と位置づけ、水や鉄道などのインフラ事業と並んで、宇宙分野の海外展開をサポートすることにも注力しています。このような変化から、株式市場でも、折に触れて宇宙機器産業が「投資テーマ」として注目されていくことが予想されます。
アナリストが注目する宇宙機器産業のポイント
宇宙機器産業の産業構造は、他の社会インフラ産業と同様に、プライムメーカー(三菱重工、三菱電機、NECなど)を頂点に、その下にサブシステムメーカー、ソフトウエアメーカー、コンポーネント・材料メーカーが連なるという構造になっています。また、現状では、日本市場の約90%は官需であり、発注者は国(政府)および宇宙航空研究開発機構(JAXA)です。
ちなみに、米SIA(Satellite Industry Association)によると、2014年に打ち上げられた世界の人工衛星の売上内訳は、米国が62%、欧州が20%、ロシアが5%、中国が4%、日本が4%となっており、米国の存在感が圧倒的に高くなっています。
このため、日本企業としては米国企業の傘下で事業機会を探るか、あるいは市場が未開拓な新興国市場の開拓を官民一体で進めることが選択肢となります。こうした観点から、現在政府が進めている「質の高いインフラ輸出」への期待が高まると予想されます。
日本のロケット打ち上げ技術の高さは、たとえば三菱重工等が手掛けるHⅡロケットの打ち上げ成功率が世界最高水準にある(96.9%)ことなどからも明らかです。ただし、打ち上げ回数そのものは、米国メーカーには大きく見劣りしているため、まずはインフラ輸出により実績を多く積み上げていくことが重要になると考えられます。
一方、海外と日本の大きな違いは、海外では発注者に民間企業が多いことや、ロケット打ち上げの取りまとめを行うプライムメーカーが、ロッキードマーチンやボーイングなどの大企業だけではなく、SpaceXなどの宇宙ベンチャーも多い点です。
日本では、現状、上場企業でロケット打ち上げサービスを行う企業はないものの、非上場のベンチャーには超小型衛星を手掛ける「インターステラテクノロジズ」、「アクセルスペース」などがあります。また、コンポーネント分野では、日本のプライムメーカーを介さず、直接海外の宇宙機器メーカーと取引を行っている企業も少なくありません。
今後、こうしたベンチャーが上場してくる可能性が出てくるかどうかも、注視したいポイントです。
LIMO編集部