本記事の3つのポイント

  •  半導体業界では新型コロナの影響を受けて、主要デバイスメーカーが相次いで売上見通しの下方修正を行っている
  •  一方、在宅勤務/リモートワークの導入が加速しており、クラウド/ストレージなどのインフラ分野の半導体需要は今後長期的にも増える可能性
  •  旺盛なインフラ需要を前に、課題は供給面。特に製造装置メーカーが米系企業を中心に生産・出荷の遅れが目立つ状況

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界各地で拡大するなか、当然のことながら半導体業界も大きな影響を受けている。足元ではスマートフォンや自動車などの最終製品の生産が停滞、あるいは需要が低迷したことで、欧米半導体メーカーを中心に売上見通しの下方修正が相次いでいる。一方で、データセンターなどのインフラ需要は今回の「コロナショック」を契機に拡大すると見られており、マイナス要素とプラス要素が入り乱れるかたちとなっている。

EMS分野から広がった影響

 中国を震源地として広がった新型コロナはまず、労働集約的な要素が大きいEMS業界を直撃した。春節明け以降、製造人員の復職率が低い状態が続き、3月末時点でも全体の操業度は7~8割程度にとどまっている。これに物流インフラの停滞、部品調達の遅延が加わったことで、2~3月のスマホの生産レベルは例年に比べて低い水準で推移した。中国に拠点を構える台湾EMS大手の20年1~2月の売上高は、HonHaiが前年同月比14%減、Pegatronが同13%減と軒並み2桁台のマイナスとなった。

 自動車も中国国内にサプライチェーンが広がっていることから、スマホ同様に完成車の生産が停滞している。ただ、自動車の場合は新型コロナの影響によって購買意欲が落ち込んでいることの方が強く、昨今の完成車メーカーの工場休止は供給面でボトルネックがあるというよりも、消費の冷え込みによる生産縮小の方が要素としては大きい。

 欧米を中心とする海外半導体メーカーは、新型コロナの感染拡大を受けて、20年1~3月期の業績見通しの修正を相次いで行っている。ただ、現時点で把握できる範囲での影響額を盛り込んだに過ぎず、4~6月期以降の業績予想はさらなる下ぶれリスクがつきまとう。

 通期業績予想を開示する日系各社と異なり、欧米企業の多くは次四半期の業績ガイダンスを開示する手法を取っているケースが多く、すでに発表していた四半期見通しを3月に入って修正するかたちとなっている。アナログデバイセズとエヌビディアは2月中旬に行った2~4月期の業績ガイダンスで、すでに新型コロナに対する影響額を盛り込んだ数値となっている。

 おおむね減額率は3~6%の範囲にとどまっており、実際の影響金額でも5000万~1億ドルとなっている。下方修正を行った企業のうち、コルボやスカイワークス、アナログデバイセズは通信系デバイスを主力分野の1つとしており、スマホや通信インフラのサプライチェーンから影響を受けた。一方、NXPやオン・セミコンダクターは主に自動車や産業機器向けを中心とする影響が多いとみられる。また、ブロードコムなどはもともと開示していた20年度通期の業績予想を撤回するなどしている。

 日系半導体メーカーは今のところ業績ガイダンスの引き下げなどは行っていないものの、これら海外メーカーと競合するルネサス エレクトロニクスやロームなども業績に対して同程度の影響が予想されるところだ。

 ただ、足元ではスマホなどを中心に、顧客側で在庫を積み増す動きもあり、供給各社もマクロ環境と異なる動きに戸惑いを見せている。中国ファーウェイなどは19年末時点で数カ月分保有していた在庫をさらに積み増す動きにも出ている。狙いは定かではないが、米中貿易摩擦のさらなる激化を考慮して、さらなる在庫保有に走ったとの見方もあるほか、「状況が不透明なので、ひとまずは発注レベルを下げていないだけ」(業界関係者)との指摘もある。

 そのため、1~3月期および4~6月期の各社業績は在庫保有政策の影響から、見かけ上の数字はそれほど悪化しないことも想定される。ただ、年半ば~後半にかけて、需要の回復ペースによっては実需と在庫のギャップが大きくなる可能性を孕んでおり、年後半以降の方が下ぶれリスクが高い状況といえそうだ。

Youtubeは画質落とす措置

 一方で、新型コロナを契機に在宅勤務/リモートワークの導入が加速しており、クラウド/ストレージなどのインフラ分野の半導体需要は今後長期的にも増える可能性がありそうだ。足元でも自宅で過ごす機会が増えたことによって、Youtubeなどの動画閲覧の機会が増加。データトラフィックが一気に増加して、Youtubeは動画ストリーミングによる帯域幅使用量を抑えるため、再生画質を落とす措置を取り始めている。欧州などではNetflixもストリーミング画質の低下をすでに始めている。

 こうしたインターネットの利用機会増加を受けて、データセンターやネットワーク関連の増強が今後進むと予想される。すでに、GoogleやAmazonなどの米IT企業は19年末からデータセンター投資を再開しており、今後これに新型コロナを契機とした需要が加わってくることになる。

Googleなど米IT大手はデータセンターの投資を拡大

 この恩恵を受けているのがDRAMだ。20年のDRAM投資はもともと低空飛行が見込まれていたが、データセンターからの需要が一気に拡大してきたことで、韓国サムスン電子は積極投資に姿勢を転じている。

 具体的には、パイロットラインの導入にとどまっていた平澤工場の第2期(P2)への新規設備導入が決まった。すでに月産1.5万枚分の装置導入が進められているが、フェーズ2投資として3万枚、さらにフェーズ3の1.5万枚もフォーキャストが出てきており、トータル6万枚の大型投資に発展する見通しだ。同社の半導体事業への20年設備投資額は前年比減少(19年実績19兆ウォン)が見込まれていたが、今回のDRAM投資再開を受けて、20兆ウォンを上回る可能性が高い。

米系装置メーカーが相次いで売上予想撤回

 メモリー分野を中心に需要拡大が進むなかで、今後懸念されるのが、設備投資を計画どおりに行えるかどうか、具体的には製造装置の手配を進めることができるかどうか。中国国内で感染拡大が広がっていた時点では、中国国内の半導体工場への新規導入が進められない事態が製造装置業界の懸念材料であったが、現在は装置メーカー側での生産停滞が大きな問題となっている。

 半導体製造装置大手の米アプライド マテリアルズ(AMAT)とラムリサーチが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、直近の売上高見通しを相次いで撤回している。本社があるカリフォルニア州での外出禁止令に加え、ラムリサーチの場合は生産拠点(委託先)があるマレーシアでも生産活動の停止措置が出たことで、売り上げのめどが立たなくなってきた。今後、両社のように装置生産の停滞や部材・パーツ調達が困難になるケースも想定され、一部で引き合いが増している顧客企業の納期に間に合わない事態も出てきそうだ。

 ラムリサーチは当初、20年1~3月期の売上高見通しとして、28億ドル±2億ドル(中心値は前四半期比8%増/前年同期比15%増)を計画。ファンドリー/ロジック分野の投資が引き続き好調に推移する見通しであることから、高い水準を見込んでいた。しかし、新型コロナの影響から3月17日付で白紙に戻した。

ラムリサーチはカリフォルニア州内に本社および生産拠点を構えているほか、マレーシアにも生産委託先がある

 3月16日以降、シリコンバレーを含むカリフォルニア州の複数のベイエリアでは屋内退避指令(Shelter in Place)が発動。本社のあるフリーモントでの業務ならびに、エッチング・成膜装置の心臓部ともいえるチャンバーを生産するリバモアでの生産活動を一時的に停止せざるを得ない状況となっている。さらにマレーシアでも大手EMS(フレックス)を活用して装置の最終組立を行っているが、同国でも最低限のインフラを除くすべての経済活動を制限する活動制限令が出されたことで、顧客への出荷が行えない状況になっている。

 その後、マレーシア政府は条件付きで一部製造業の操業を認める例外措置を発表している。これには食品や医療のほか、化学品や電気電子産業も含まれており、従業員の減員や衛生環境の整備など一定の条件を満たすことを条件に操業の継続を許可するもの。ただ、マレーシアでの生産活動停止を回避できたとしても、操業度が落ちることは確実だ。加えて、部材・パーツの調達も今後支障が出てくることが想定されるため、影響は不可避との見方が大勢だ。

 AMATも3月23日付で、20年度第2四半期(2~4月)の売上高予想を取り下げた。具体的な修正ガイダンスはラムリサーチ同様に開示しなかった。

 AMATやラムリサーチのように、装置の最終組立工程でアウトソーシングを活用するのは、海外の半導体製造装置メーカーに多い。日系企業のアドバンテストもメモリーテスターは国内の自社工場での生産がメーンとなっている一方で、過去に買収した旧ヴェリジーのテスターはEMSでの生産にほぼ依存している。仮に自社工場で生産しているケースでも、同業他社が大幅な納期遅延を起こせば、顧客の投資スケジュール自体が変更を余儀なくされるため、間接的な影響を受けることになりそうだ。

 中国ローカル顧客の投資延伸などによるマイナス影響はあるものの、DRAMの大型投資といったプラス影響が予想以上に大きく、半導体製造装置メーカーにとっては足元の旺盛な需要にどう対処していくかが、現状での優先課題となっている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

まとめにかえて

 世界的な新型コロナの感染拡大を受けて、足元の半導体業界は他の製造業と同じく厳しい状況が続いています。ただ、ゲーミング市場やオンライン学習の拡大など、記事にもある在宅勤務/リモートワークの一斉導入などプラスの面があることは見逃せません。こうした状況を加味しても、コロナ終息後の半導体市場の回復は他の産業と比べても、早いものになると考えられます。

電子デバイス産業新聞