「お前が客に集金に行くと、客は預金してくれるだろう。しかしそれは、お前にではなく、お前が属している組織に対する信用があるからだ。お前が個人として銀行を開いて預金を集めても、誰も預けてくれないだろう。上手くいったとしても、給料の半分も稼げないと考えた方が良いだろう」

「そうだとすれば、お前の給料の半分は組織の理不尽に耐えていることの我慢料だ、と考えれば良い」というわけです。

すごく納得したことを覚えています。しかし、筆者が本当に先輩の言葉を身を以て実感したのは、銀行を辞めてからのことでした。

筆者が銀行を辞めて痛感したことがある

筆者は銀行時代、景気の予想屋としての仕事を長く担当していました。景気の予想について原稿を書いたり講演をしたりしていたわけです。駆け出しの予想屋であるにもかかわらず、多くの原稿や講演の依頼をいただいていました。

しかし、筆者が銀行を辞めた途端、原稿の依頼も講演の依頼も激減しました。長い間景気の予想屋をやっていたので、予想の内容も文章も話し方も、駆け出しだった頃より遥かに上手くなっていたはずなのに、駆け出しだった頃よりずっと依頼が少なくなってしまったのです。

よく考えれば、人々は筆者の予想を聞きたいのではなく、銀行の調査部門の見通しを聞きたいと考えて筆者に原稿や講演を頼んでいたのですね。組織の中で予想を担当しているのが筆者だったとしても、組織の看板を掲げていることが大事だったわけです。