条例案が県議会に提出されてから、あらゆるメディアで注目されている香川県の「ゲーム規制条例」。子どものゲームの時間を規制するといった内容の条例で、ゲーム依存症を食い止め、子どもの健康や睡眠時間を確保することを目的とすることに賛同の声もある一方で、罰則規定がなく、また、前時代的な条例だとする意見もあり、賛否が分かれています。
この記事では、注目を集める香川県のゲーム規制条例に関する話題をご紹介します。
「県民の9割が賛成」ってホント?
かねてから、香川県議会が全国に先駆けて制定を目指している、ゲームやインターネットの依存症対策に関する条例案。内容としては、子どものコンピュータゲームの利用を、1日あたり平日60分、休日90分を上限の目安とし、保護者には、子どもに順守させるように求めているというもの。この条例案に対し、県は2020年1月23日から2月6日の期間中、県内在住の個人と県内外の事業者に対しパブリックコメントを募り、3月12日に県議会の委員会が結果を報告しました。
意見を寄せた県民2613人のうち、9割に近い2268人が賛成しており、反対は333人という結果に。「県民の多くが、この条例案に対して賛同している」と読み取れる一方、意見を寄せた県内外の73の団体と事業者のうち、賛成は1団体のみで、反対が68団体に上るという結果になりました。不思議なことに、丸っきり反対の数字になっているのです。
そして、県議会の条例検討委員会は、条例案を3月18日に議会に提出することを決めており、18日の審議では可決される見通しです。可決されれば、2020年4月1日から施行されます。
毎年水不足になるんだから、うどんも1日1玉な!
ネット上では、批判的な意見が比較的目立っています。少し紹介してみましょう。
「反対333人どころか総数300件でも尋常じゃないくらい多いのに、2268人が賛成というのは人口100万人もない香川県で出る数字ではない」
「この2000を超える賛成意見というのは正直に眉唾ものだと思っています。わざわざ『それはいいですねえ!』という意見書を圧倒的多数の人が提出するものでしょうか?しかも全国から批判されている中」
「引き籠もりや依存症の大元の原因にはソッポを向いて、依存対象(とその関係者)にだけ濡れ衣を着せた挙げ句、反対意見は無視し、議会の傍聴や概要の公開は一切拒否」
その一方で、皮肉たっぷりの投稿やネタ的な投稿もあります。
「もうさあ、この種の条例が他に広がらない様に、全てのゲーム会社はこれを期に香川からのアクセスを完全遮断する方が良いんじゃないか?そしたら、流石に香川に追随する自治体はもう出て来んじゃろ」
「毎年水不足になるんだからうどんも1日1玉な」
「こんな賛否のわかれる議題で賛成9割ってナチスのオーストリア併合ばりの不自然な数字なのだが香川県民は違和感を感じないのかね?」
「翔んで香川という映画作ってゲーム条例をネタにしようぜ」
こんな形で、一部、別の形でも盛り上がりを見せているようです。
ちゃんと守れる「わが家のルール」を決めよう
ここでいったん「初心」に戻って考えてみたいと思います。この条例制定の目的は、「1日あたりのゲーム時間を制限することで、子どものゲーム依存を食い止め、予防する」というもの。しかし、罰則もない努力義務であるために、実効性がないとされており、目安としている「平日1日60分、休日1日90分」という時間も科学的根拠がないとされています。また、「家庭のルールに対して行政が口を挟むのはよくない」とする見方もあるため、条例制定には慎重でなおかつ多角的な物の見方が必要とされます。
しかし、ゲーム依存症の弊害や健康被害は、すでに確認されています。さらに、ゲーム依存症とまでは言わなくても、子どもが宿題や部屋の片付けを一切しないで、ゲームに没頭してしまっていると、「うちの子、大丈夫かな……」と心配してしまう親がいるのも当然です。
各家庭の方針によって、ゲームについての考え方は違いますが、一定のルールをつくることで親子の関係も円滑になり、適切な距離でゲームを楽しむことができるのではないでしょうか?
ネット上には、家庭での子どものゲームルールについて、こんなアイデアを発信している人たちもいます。
「我が家のルールではゲームは1時間までと決めていますが、身体を動かす物とテトリスみたいな思考を刺激するものはその限りではありません」
「我が家はゲームは朝起きてから学校行くまでの間だけやって良いというルールなので、息子はゲームやりたさに20時就寝5時起きで、朝ごはんもセルフで食べて学校に行く。朝が平和になった」
「我が家の場合。「ドリルの正解した点数=経験値」というルールを設けたところ、報酬があるわけでもないのに、息子は経験値稼ぎのために進んでドリルに取り組むようになり、あまりswitchで遊ばなくなりました。「ルール次第で日常のいろんなことはゲームになる」が、俺の持論です」
工夫しだいで、親ができることは、まだありそうですね。
依存症専門家が提案する方法
インターネットやアルコールなどの依存症の予防や治療、研究を専門とする独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長の樋口進氏は、著書『スマホゲーム依存症』の中で、依存の治療に有効といわれる認知行動療法の一つである行動記録法を使った「ゲームのプレイ時間のモニタリング」という手法について触れています。
これは、ノートに「起床時間」「食事」「入浴」「勉強」「仕事」「スマホゲーム」「インターネット」(具体的な使用方法も)「就寝時間」といった生活上の出来事を書き出し、そこに簡単な感想を書いていくというものです。また、それを実践するコツ、ヒントとして、以下のようなものを挙げています。
・「◎」「○」「×」で目標が守れたかどうか3段階評価する
・「食事中」「ベッドに入ってから」など、やってはいけない時間をつくる
・プレー時間の上限を設定する
・スマホゲームを読書や音楽鑑賞など別の行動に置き換える
・スマホゲームをやらずにいれば、実現できたかもしれないことを考える
・2週間経ったら振り返る
・スマホゲーム時間を減らそうと努力していることを周囲に吹聴する
これは、あくまで「依存」レベルの状況から抜け出すための方法として紹介されており、またネット上では香川県の条例案と著者の樋口氏の主張との関係を指摘する向きもありますが、上記の手法自体については、読者の方々の家庭で参考になる点もあるのではないでしょうか。
ゲームに限らず動画なども
「可決ありきで条例の審議過程が不透明」「そもそも憲法違反の可能性がある」「家庭のことに行政が口出しするのはどうか」など批判も多く、いくつもの疑念をぬぐえていないまま可決へ向かっている印象さえある香川県の条例案ですが、見方を変えれば、この問題は「各家庭にゲームについて見直すきっかけをつくってくれた」ともいえるのではないでしょうか。お子さんのいるご家庭は、子どもと話し合いを通じてルールを作ってみるのがいいかもしれません。もし、現状のルールでうまくいっていないときは、お互いに意見を出し合いながら、より実現しやすいルールに改定してみるのもいいかもしれません。
ゲームに限らず、YouTubeなどの動画サービスも同様です。それぞれの家庭で「これなら守れる」というルールをつくって、実行できたらいいですね。無理のないアプローチで、深刻な事態にならないようにしていきましょう。
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