今、急成長を遂げている企業も、著名な大企業も、はじめは「スモールカンパニー(小さな会社)」です。先行するライバルを追い抜いて成長していく会社がある一方で、伸び悩んでしまう会社もあります。それらの会社の違いは、一体どこにあるのでしょうか。

 今回は、「伸び悩む会社」に欠けているものについて、『スモールカンパニー 本気の経営加速ノート』の著者で、経営コンサルタントの原田将司氏に教えてもらいました。

会社が儲けるために必要なものとは?

 あなたの会社には、確固とした「理念(ビジョン)」があるでしょうか? とあるシンクタンクの統計で中小企業800社を対象に調査を行なったところ、売上規模が小さいところほど「明確な理念がない」という結果が出ました。

 筆者は経営コンサルタントとして、社員数100名以下で売上数億円規模の「スモールカンパニー」を数多く見てきましたが、明確な理念がない会社が実に多くあります。

「儲かればそれでいい」「理念なんて無意味だ」という社長がいますが、これはとんでもない誤りです。少なくとも成長を目指す企業には、理念は必要不可欠です。理念なんて無意味だという社長は、儲けることと理念が無関係であると誤解しています。そうではなく、儲けるための大前提として理念が必要なのです。

 会社は「社長おひとり様」で頑張っているわけではありません。社員はもちろん、お客様や周囲の協力が必要不可欠です。この協力を引き出すために必要なのは、お金だけではありません。社員やお客様は、この事業には何の意味があって、何処へ向かっているのか、「未来」を知りたいのです。

 人は、お金をきっかけとして動き出し、「大義」によって力を発揮します。理念は、周囲の協力を得て会社が成長するために必要不可欠なものなのです。

理念がない会社は、方向性が定まらない

 理念が全社に浸透しておらず、額縁に飾られた単なる「インテリア」となり、形骸化してしまっている。そのような会社は意外に多いものです。理念には、会社が進むべき方向を示して選択の迷いをなくし、全社員の志向を一致させるという大切な役割があります。

 理念が曖昧な会社は、社長の思考や意思決定がブレて場当たり的な判断を下し、社員を含む関係者全員を大混乱に陥れてしまいます。混乱した部下は思考を停止させ、保身のためにミスを恐れて自発的な活動をやめてしまい、社長も自分の考えが部下たちにまったく理解されないので社内で孤立し、周囲のサポートをうまく引き出せずに迷走することになります。

 こうした状況が、目先の収益維持のために忙殺されることで見えなくなり、がんばっても一向に業績が伸びない状態、「負のスパイラル」に陥るのです。

 また、掲げられた理念が経営目標とどのように結びついているのかよくわからないのも問題です。理念と事業が遠過ぎると感じるような場合も同じです。理念が明確で、その理念が事業に深く結びついており、「経営目標を達成することで、理念の実現に近づけることができる」と社員が信じられる会社だけが、成長し続けることができます。

実現したいことを言語化すれば「理念」になる

 では、理念とは何でしょうか?

 理念は、「会社の目的」と言ってもいいでしょう。著名な経営学者であるピーター・F・ドラッカー博士は、「企業の目的は顧客を創造すること」だと説いています。顧客の集合体としての市場を創り出すことが企業の目的という意味だそうですが、究極的過ぎてピンと来ない方も多いかもしれません。

「経営」そのものを目的として、社長になる人はいません。「『顧客を創造したくて』社長になりました」という人も、筆者は見たことがありません。社長は、事業活動を通して「やりたいこと」があって、それを実現するために会社を経営しているはずです。社長がやりたいことの延長線上に顧客の創造があると、ドラッカー博士は説いているのです。

 伸び悩んでいる会社は、社長の中にある「やりたいこと」が漠然としていて具体的に言語化できておらず、理念と目標が結びついていない状態であることが大半です。たとえ親の跡を継いだ2代目社長であっても、事業を継続していく中で「やりたいこと」が生まれているはずです。

「やりたいこと」は、「実現したいこと」と言い換えてもいいでしょう。それが会社の目的であり、理念となります。

理念なく急成長した会社は、すぐに消えてしまう?

 理念は、社員と共有することで「共通の目的」になります。その結果、社員や周囲の協力を得て達成に向かうのです。目的が曖昧なまま業務に忙殺されてしまい、いつの間にか「事業存続」や「雇用維持」が目的のようになってしまう会社はたくさんありますが、それは大きな間違いです。それらは単なる必要条件であって、目的ではないからです。

 社員は、たとえ雇用がなくなったとしても会社を移ればいいため、「会社を続けていくこと」や「雇用を維持していくこと」が目的だと言われても、社員はまったく共感できないでしょう。社員が共感できないものを、共有しても意味がありません。正しい目的を見失った企業には、成長も存続もありません。実務がどんなに忙しくても、伸び悩みたくないのであれば、社員と共有・共感できる理念をつくりましょう。

 かつて経営破たんした日本航空(JAL)を再生した京セラ創業者の稲盛和夫元会長も、着任早々にJALの理念を見直して「全社員の物心両面の幸福」という文言を新たに追加しています。そして、実現のプロセスを事業計画化し、具体的な数値目標に結びつけて全社員に浸透させたことで、見事に再生を成し遂げました。JALのような大企業ですら、組織全体で志向を一致させようとがんばっているのですから、スモールカンパニーが成長しようとするのなら、なおさら理念が大切になるのは言うまでもありません。

 会社が勝つために必要な周囲の協力を得るには、言語化された理念を「大義」として掲げ、それを実現する道のりを具体的な目標として示す必要があります。突然、彗星のごとく現れて急成長を遂げたあと、すぐに消えていく会社もありますが、こうした会社は目的を言語化できず、理念を後回しにしたり、よく考えずにとってつけたような浅はかな理念を「大義」として掲げてしまったりしたことで、敗北に追い込まれる典型的な例だといえます。

筆者の原田将司人氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

持続しない成長は、「成長」とはいえない

「企業の成長とは、持続的な価値創出による収益の拡大である」と筆者は考えています。持続しなければ「成長」とは言えません。一時的に終われば、それは単なる「拡大」です。そして成長は、社内外の協力を取りつけて初めて実現できることを忘れてはいけません。

「企業は社長の器以上には成長しない」とよく言われますが、これは本当です。すべては社長の覚悟から始まります。社長の覚悟が思考を深化させ、より意義深く大きな目的を見出していくのです。そして、それに社員を含めた周囲が共感し、力を貸してくれるからこそ、会社は成長します。

 社長がブレず、迷わず、最適な意思決定をしていくためには、向かうべき方向を一点に定めなければなりません。その方向づけは、言語化された理念でこそ実現できます。長く続く大手企業や老舗企業には、必ず理念があります。家訓・言い伝え、クレド(信条)などもこれにあたります。長く繁栄する企業には、理念が必要だったということです。

 

■ 原田 将司(はらだ しょうじ)
 兵庫県芦屋市出身。リソースアクティベーション株式会社および株式会社ことぷろの両社の代表取締役。中京大学経営学部を卒業後、証券会社を経て渡米。プロ格闘家とビジネスの両立を目指す中、米国同時多発テロに遭遇し、発生当初からレスキューチームに参加。帰国後、2006年に経営コンサルティングのリソースアクティベーション株式会社を設立。数々の販路開拓・新規事業プロジェクトを成功させている。

原田氏の著書:
スモールカンパニー 本気の経営加速ノート

原田 将司