国内半導体大手のルネサス エレクトロニクスは、向こう5年間をめどとした新財務モデルを策定した。売上高のターゲットは年率7%を上回る成長を目指すほか、主力の車載分野では成長領域にR&Dリソースを積極的に配分するなど、濃淡をつけた戦略を推進する。

新製品展開「独り善がりだった」

 19年(暦年)売上高について、為替レートを円高で調整(1ドル=100円/1ユーロ=120円)、かつ工場閉鎖などに伴うEOL(End of Line=生産終了)品種の売り上げを除き、6204億円と設定(19年決算ベースは7182億円)。これを基準にSAM(Served Available Market)ベースの市場成長率7%を上回る成長を目指していく考え。

 16年に公表した中期経営プランでは、売上高成長について市場平均の2倍の成長率を掲げ、事業を展開してきた。しかし、結果は市場の伸びが6%に対し、同社の成長率は7%にとどまった。これについて、柴田英利CEOは「バランスシートの管理はしっかり行える認識は持ってもらっているが、市場から成長戦略が求められているのは理解している」と、トップライン(売上高)の拡大を図っていく姿勢を強調した。

 トップラインの未達については、「新製品の展開が独り善がりであった」などと反省の弁を語った。競合環境を冷静に捉え、どのような付加価値をつけていくのか、という明確な戦略が今後重要であるとの見解を示した。

ADAS、xEVなど成長領域にリソース投下強める

 車載は調整額3330億円をベースに、市場全体の伸び率と同等の8%程度の成長を目指す。主力製品のマイコンなどが含まれる車載制御は市場成長と同等の4%程度の成長を見込む一方、ADAS(先進運転支援システム)は17%、xEVは18%と市場を上回る伸びを達成していきたい考え。インフォメーション分野は市場全体を下回る4%の伸びを想定しており、「(インフォ分野は)意思を持って成長は追わない。限りあるR&Dリソースを有効活用する」(柴田CEO)としており、全方位戦略ではなく、濃淡をしっかりとつけた事業展開を進める。

 買収したIDTの事業などが含まれている産業・インフラ・IoT(IIBU)部門は、調整額2874億円をベースに市場全体の成長率7%を上回る伸びを目指す。事業戦略ではシリコンバレーに事業拠点を持っている強みを生かし、他社との協業などを積極的に図っていく。また、販売面ではグローバルディストリビューターとのパートナーシップ拡充による営業リソースの拡充などを進める。

 製品別ではマイコンへの依存体質を改め、SoCやアナログ、パワーデバイスの事業を拡大させる。これにより、マイコンの売上比率は19年実績の49%から将来的に40%に抑えていく。

粗利益率未達は「過剰投資・過剰在庫」

 同社が経営指標としていた粗利益率については、16年に公表していた中期経営プランでのターゲット50%に対し、19年実績は44%と目標に届かなかった。これに対し、新開崇平CFOは前工程を中心とする過剰な設備投資、およびそれに伴う過剰在庫が大きな要因だったと分析。

 新財務モデルでは粗利益率50%の再度達成に向けて、減価償却費の減少や製造固定費の削減などを進める。生産戦略では前工程において現状3割程度の外注比率を今後4割に引き上げる。さらに、すでに公表済みの6インチ工場の閉鎖を進めることで、既存工場の稼働率を図っていく。

 ただ、稼働率についてはさらなる改善の余地もあるとしており、6インチの閉鎖以降も「別途戦略的なことを実施していかなければならない」(新開CFO)として、さらなる生産体制の見直しについても示唆した。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳