本記事の3つのポイント
- JEITAによれば、電子情報産業の世界生産額は、対18年比で1%増の2兆9219億ドル。これが20年には対19年比で5%増の3兆807億ドルに達し、過去最高を更新する見通し
- 19年における電子デバイスの世界生産額は、対18年比で8%減の7550億円。しかし20年には対19年比で5%増の7914億円に達する見通しである。5Gの進展やIT投資が牽引
- 世界市場の4割を握る国内の電子部品産業にも期待。半導体と異なり、原材料メーカーとの密接な関係、製造設備の内製化なども、参入障壁の1つ
電子情報技術産業協会(JEITA)は、2019年12月に「電子情報産業の世界生産見通し」を公開した。
19年(1~12月期)における電子情報産業の世界生産額は、対18年比で1%増の2兆9219億ドル。これが20年には対19年比で5%増の3兆807億ドルに達し、過去最高を更新するとの見通しを立てた。
この根拠の背景にあるのが、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた、第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスの始まりである。5Gは周波数帯6GHz以下からスタートし、やがてはミリ波帯に突入して、巨大マーケットを形成すると期待されている。
5Gの到来で、各企業においては攻めのIT投資が続くことで、ソリューションサービス需要が大きく拡大する。また、大容量データを高速処理するニーズを満たすため、電子機器端末の高機能化をさらに加速させることになる。これにクルマへの安全意識と電装化率向上が加わり、機器に内蔵される電子デバイスも大躍進するという解釈である。
JEITAが示唆する電子情報産業とは、大きく6ジャンルで構成される。①は「AV機器」で、薄型テレビが主役となる。②は「通信機器」で、主役はやはりスマートフォンである。③は「コンピューターおよび情報端末」のジャンル。パソコンに加え、ディスプレーモニターやプリンター、スキャナ―など周辺の情報端末とともに2本柱で構成される。④はその他で、電気計測器や医用電子機器などを示唆する。
そして、⑤が電子部品、ディスプレー、半導体で構成される「電子部品・デバイス」と⑥の「ソリューションサービス」である。
20年に3兆円の大台に乗るとの見通しだが、それだけの市場規模を築くのに相当する、牽引役となるアプリケーションが見当たらない。
①の薄型テレビは、東京オリンピックに4K・8Kが連動し、なおかつ買い替え時期も重なり景気到来が再来するとのこと。買い替え時期とは、かつて地上デジタルテレビ放送への切り替え時、初めて薄型テレビを購入した層のことで、この層が買い替え時期を迎えるとの意味合いだ。どう考えてもこれはパネルメーカー側の理論で、現状とは乖離しているように思われる。
では、②のスマホは今後、どのように進化するのであろうか。IoTビジネスが各企業で本格化すれば、個人ユースではなく、ビジネス端末として新市場が生まれる可能性がある。そのときのスマホ供給リーダーは北米ではなく、中国メーカーが主権を握りそうだ。生産は台湾や中国のEMS(受託製造サービス)ではなく、東南アジア域のEMSが立ち上がってくる。
③のコンピューター関連の領域は、データセンターのサーバー躍進に期待したい。17~18年にかけて、電子情報産業の好景気を招いた一翼は、クルマとともにデータセンターの躍進も見逃せない。とりわけ、流行語にもなった「インスタグラム」の貢献度は大きい。
写真情報の変更が頻繁に実行される、インスタグラム保有のデーターセンサー内ホットストレージ(記憶)に注目。ここでNANDフラッシュをはじめとするメモリー不足が起き、デバイスメーカーのみならず、製造装置・材料業界にも好景気をもたらした。半導体関連メーカー各社とも、株価が高値で推移したことは、まだ記憶に新しい。
好況を呼び込むインスタグラム並みの牽引役が再来するであろうか。データセンターはGPU(グラフィックスプロセッシングユニット)サーバーを駆使して、AI(人工知能)学習の役割も担っている。このとき、生データを記憶させるのに大量のNANDフラッシュが不可欠となる。これを起爆剤に好況が再来すればよいのだが、AIの進化速度を見ていると、まだまだ時間がかかりそうである。
電子情報産業の今後を、少し悲観的な視線で見てしまった。やはり車載の領域が取り込まれていないからであろう。かつてスマホはカメラ機能なども取り込み、電子機器の市場地図を塗り換えてしまった。今後、そのスマホさえも、車載インフォテインメントとして取り込んでしまうのがクルマである。クルマはもはや産業用/民生用の両電子機器機能を取り込んだ、電子情報産業の集合体と表現できよう。JEITAの次なる視点と取り組みに期待したい。
大躍進続く電子部品産業
19年における電子デバイスの世界生産額は、対18年比で8%減の7550億円であった。しかし20年には対19年比で5%増の7914億円に達する見通しである。この背景にあるのは、やはり5Gの進展や攻めのIT投資が支えとなっている。
電子デバイス産業は18年下期あたりまで絶好調を持続していた。ところが同年10~12月期後半ごろから、米中貿易摩擦の影響を受け受注が3割減、絶不調に陥ってしまった。中国での設備投資が皆無となり、産業用工作機械が不振。当然、EMSへの発注も激減し、スマホも不振となってしまった。
この余波は、頼みとする自動車産業にも波及。18年の中国における新車販売台数は28年ぶりに前年割れを起こしてしまった。米国ではセダンが売れず、EU域においては排ガス規制対応の検査装置が間に合わず生産が滞り、世界規模でクルマも不振だった。
それでも19年下期には回復するとの見立てが強く、18年度(19年3月期)決算説明会ではデバイスメーカー各社とも、19年度は軒並み増収増益の通期業績予想を前面に押し出した。
ところが、待てど暮らせど景気回復のトリガーは姿を見せず、19年11月ごろを前後して、各社とも下方修正に踏み切った。せめて5G対応の基地局インフラにでも火がつけばよいのだが、煙すらも上がっていないのが実情である。
しかし、長期的視野に立てば、JEITAが指摘するように、電子デバイス産業は大躍進を遂げる。とりわけ世界市場の38%を制する電子部品業界への期待は大きい。今後、データ処理量はこれまで以上に増大し、伝送速度はさらに高速化。半導体の持つ能力が不可欠となる。
当然、半導体の安定駆動に不可欠の受動部品や接続部品をはじめ、電子部品はこれまで以上に市場を拡大する。高信頼性部品を提供する日系メーカーのシェアは、半導体産業の二の舞を避け、これからも躍進を続けるであろう。長年にわたる原材料業界との密接な関係、製造装置の内製化によるプロセスレシピのクローズといった戦略も、高シェア確保に有効に機能している。また、ディスプレーも映像表示デバイスとしての機能のみならず、機械と人間の間を取り持つ、ヒューマンマシンインターフェースとして別の進化を遂げる可能性が高い。おそらくはスイッチなども取り込んでしまうであろう。
好景気が到来することは確実だ。誰もがそう思っている。そのトリガーとなるアプリケーションが動き出すことと、そのタイミングが察知できないもどかしさが、それが現在のエレクトロニクス業界である。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司
まとめにかえて
5G商用化など明るい材料があるのは事実ですが、足元ではやはり、新型肺炎による業界への影響が懸念されています。中国国内にある工場の操業再開に向けためどが立っておらず、サプライチェーンは混乱の度合いを深めています。感染拡大も今後どの程度広がりを見せるのか。まったく見通しが立っていない状況です。
電子デバイス産業新聞