2019年10月下旬、イスラム国(IS)の指導者であるバグダディ容疑者がシリア北西部で殺害され、世界で大きく報道された。だが、それによってISの脅威は収まったわけではない。
米イラン関係に注目が集まる陰で気になる動きも
確かに、幸いにもISは以前と比べるとかなり衰退したといえるが、同容疑者の殺害はISにとって1つの通過点にしかなっていないのが実態だ。最近、米イラン関係もあり、中東ではイラン情勢が大きく報道されているが、実はシリアやイラクでは小規模ながらもISのテロ活動は続いている。
たとえば、イスラム過激派の動向を監視する米国のサイトインテリジェンス(SITE)は、1月10日、昨年12月25日~31日の間におけるISのテロ事件(イラクとシリア)に関する統計を公表した。
それによると、ISによるテロは、シリアではデリゾール県で12件、ラッカ県で10件、ハサケ県で2件、ホムス県で2件、アレッポ県で1件、ダラア県で1件それぞれ確認され、イラクとの国境に近い東部に事件は集中している。
イラクではニナワ県で4件、エルビル県で2件、キルクーク県5件、サラーハッディーン県で8件、ディヤーラ県で8件となり、北部に集中している。1月上旬、これまでIS掃討を主導してきたイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官が殺害されたことで、同司令官が率いたシーア派民兵の歯車が崩れ、今後ISが活動を活発化させる可能性も懸念されている。
また、世界各地をみると、依然として、フィリピンやバングラデシュ、パキスタンやアフガニスタン、イエメンやエジプト、ナイジェリアなどでは、ISの「州」を名乗る組織が活動している。こういったIS系組織は、テロ事件を起こしては犯行声明を出し続けている。
各組織によって財政力や軍事力は異なるが、ISの主義・主張を強く支持し、バグダディ容疑者殺害後も新たな後継者として発表されたアブ・イブラヒム・ハシミ・クラシ(Abu Ibrahim al-Hashim al-Quraishi)という人物に忠誠を表明するなど、依然としてISのブランドやイデオロギーといったものは生き残っている。
去年4月には、日本人1人も犠牲になったスリランカ同時多発テロがあったが、そういったブランドやイデオロギーに染まる人物やグループがどこから台頭しても不思議ではない。今後もISのよるテロリスクは残る。