人工知能の波はトレーディングにも押し寄せている
2016年5月12日、サンフランシスコのブルームバーグで開催された招待制イベント「Machine Learning in Trading」に参加してきました。このイベントは、Startup.MLという機械学習の専門家を育成する集団がブルームバーグと共同で開催しています。
トレーディングにおける機械学習技術ということでかなりニッチなターゲットなのですが、このようなイベントが招待制で成立するほど機械学習や人工知能への注目度が高いことが伺えます。
今回は、ここで発表された5つのプレゼンテーションの概要を紹介したいと思います。
1.ブルームバーグの機械学習事例
まずは、ブルームバーグの機械学習技術責任者のGary Kazantsevによるプレゼンテーションです。
ブルームバーグ上で無数に流れてくる情報が、株価の動きにどのように影響するかを過去の例から説明した上で、各株式銘柄のセンチメントをスコアリングした機能が紹介されました。
センチメント分析とは、テキストマイニング技術を用いてニュース・SNSなどを解析し、消費者動向・トレーダー心理などを分析する手法です。
2.取引アルゴリズムの検証に必要なバックテスト
2つ目は機械学習等を使った自動取引アルゴリズムの出来を検証するためには必須な、バックテストに関する発表です。
このプレゼンでは、クオンツヘッジファンドを運営していた数学者のSteven Pavが、バックテストを行う上で気をつけるべき内容として、過去データに対するオーバーフィッティングの問題などを、バックテストのクオリティを段階的に分けることでわかりやすく説明していました。
バックテストの精度は筆者が経営するAlpaca(アルパカ)でも非常に重要視しており、アルゴリズム作成の基礎的な部分です。
3.ビットコインを使った全自動取引アルゴリズム
主催者であるStartup.MLのArshak Navruzyanによるプレゼンでは、同社の機械学習専門家育成プログラム内で参加者と開発しているビットコインを使った全自動取引アルゴリズムの紹介をしていました。
ビットコインは、他の資産クラスに比べても過去データ等における価格データへのアクセスが容易だということもあり、機械学習技術の実装対象としてとても良いということでした。
Startup.MLではリアルタイムでそのアルゴリズムを走らせており、ビットコイン取引アプリケーションを出しているCoinbase社の取引アプリケーション上で発注される様子を実演していました。ビットコインが機械学習の実験材料にもなっているのが非常に興味深いと感じました。
4.オープンソース化されたバックテストやポートフォリオ分析
4つ目は、アメリカのミレニアム世代にも人気の、米株の自動取引アルゴリズム開発プラットフォームを運営するQuantopianのJustin Lentによる発表です。
Quantopianでは、バックテストやポートフォリオ分析の仕組みをオープンソース化しており、今回の発表では主にその使い方を説明していました。
Quantopianでは、人気のプログラミング言語であるPythonを使って自動取引アルゴリズムをウェブ上で開発できます。また、バックテスト等の膨大なデータを扱う処理もクラウド上で完結している、完全無料のサービスです。
5.トレーディングにおけるディープニューラルネットワーク適用
最後に、イリノイ工科大学で教鞭をとっているMatthew Dixonによる、トレーディングにおけるディープニューラルネットワークの適用についての発表がありました。
ネットワークの内容については発表では詳細には触れていませんでしたが、単純な条件設定のもとでニューラルネットワークを活用した上での結果が発表されていました。
Matthewは大学における研究以外に、ヘッジファンドと共同でディープニューラルネットワークを活用した自動取引アルゴリズムの開発にも携わるなど、ディープラーニングがプロのヘッジファンドの投資運用戦略の一部として取り入られ始めているようでした。
ディープラーニングへの関心が高まっている
今回のStartup.MLカンファレンスはフィンテック(FinTech)の中でもトレーディング関連のテーマが多く、この領域での機械学習の適用がかなり進んできていると感じました。
また、会場からの盛んな質問などから、機械学習のみならずディープラーニングへの興味の高まりも見受けられ、筆者も自社の技術を向上させるべく、さらに研鑽を重ねたいと背筋が伸びる思いでした。