愛知県東海市に知る人ぞ知る半導体製造装置メーカーが存在する。その名はテイコクテーピングシステム(TTS)。従業員はわずか18人と少人数ながら、ファンアウトパッケージやRFフィルター向けに業界標準というべき製造装置を展開。ニッチトップというフレーズが真にふさわしい事業スタイルを貫いている。海外市場に活路を見出しながら、愛知の地でのものづくりにこだわる姿勢は見習うべきところも多い。
テープラミネーターが主力事業
TTSの設立自体は1995年だが、前身は帝国精機で、代表取締役社長の李昌浩氏はTTS設立前に帝国精機で18年間勤務していた。同社の創業者が亡くなったのち、会社の後継者がいなかったことから、李社長が特許実施権および顧客基盤を承継し、TTSを設立。再スタートを切った。
李社長は帝国精機時代に、現在TTSの主力事業となっているテープラミネーターの開発責任者であった。当時、帝国精機は松下電器(現・パナソニック)から組立装置を受託しており、帝国精機自体は装置の製造は行っていたが、設計は外注を活用していた。
その外注先に李社長が勤務していたのだが、帝国精機の熱心な誘いもあり、帝国精機に移籍した。このころ、テープを精度良く貼る装置がなく、電子レンジにマスキングテープを貼る装置の開発依頼が舞い込み、李社長が開発を担当することになる。これが現在のテーピング装置の原型となった。
その後、1980年に当時手貼りだったウエハー裏面研削用テープの自動化装置の開発を担当。手貼りから自動化に切り替えることで、歩留まり向上に大きく貢献するとして、李社長は自信を深め他社への売り込みをかけるのだが、「当時の日本製半導体製造装置に対する認知度やブランド力は低く、なかなか買い手がつかなかった」(李社長)という。
「これでダメならあきらめよう」
最後の望みとばかりに、当時のセミコン大阪に出展。「これでダメならあきらめようと思った」(同氏)と覚悟を決めていたが、偶然にも米モトローラ社半導体部門の技師長の目に留まり、ラミネーターとテープ剥離用途のリムーバーを大量購入する商談がまとまった。
当時、大手半導体メーカーであったモトローラが大量購入したという情報は海外で一気に広まり、IBM、シーメンス(現・インフィニオン)、STマイクロエレクトロニクス、フィリップスなど名だたる企業に波及していった。結果的に日本よりも海外での知名度が先行するかたちとなり、海外が主力マーケットという基盤は現在も受け継がれている。
売り上げの大半はアジアや北米などが担う。わずか18人にもかかわらず、売上高は年間7億~10億円で推移しており、少数精鋭で高い生産性を発揮していることがうかがえる。
開発・設計から製造まで本社工場で完結
驚くべきは、この人員で開発・設計から製造までをすべてこなしている点だ。半導体製造装置は水平分業が進んでおり、設計受託のほか、装置組立も協力工場などのアウトソーシングを活用するケースが多いが、同社の場合は東海市にある本社工場ですべての開発・設計、生産のオペレーションを行っている。
特殊プロセスかつ、非常に高い精度が求められるラミネーターだけに、「なかなか協力工場を使うことができない」(李社長)という。すべての工程を一貫して社内で行っていることもあり、納期は最大6カ月とリードタイムは決して短くないが、徹底したブラックボックス化を図ることが、結果的に同社の競争力の源泉にもなっている。
ファンアウトに続き、RFフィルターでも商機得る
そして、近年飛躍のきっかけとなったのが、ファンアウトパッケージでの採用だ。採用顧客である台湾企業ではバンプ形成時に用いるドライフィルムレジスト(DFR)のラミネートで同社装置を活用していたが、これをファンアウトパッケージのCuポスト形成工程に転用した。
さらに、近年目覚ましい成長を遂げているのが、RFフィルターだ。SAWフィルターやBAW、FBARがこれに含まれており、昨今はスマートフォンをはじめとするモバイル通信端末の多バンド化/高周波化によって、スマホ1台あたりの搭載員数や、より一層高性能フィルターが求められる状況となっている。
これらフィルターデバイスは中空構造を設けるケースが多く、チップ上にガラスやシリコンなどで封止を行うキャッピング工程が重要プロセスとなっている。しかし、近年はデバイスの軽薄短小ニーズに伴い、DFRを封止膜として活用する「ポリマーキャップ」工法を採用する企業が増加傾向にある。同工法に切り替えることで、従来のガラス/シリコンのキャップ工法に比べて、デバイスの厚みを半分以下に抑えることができる。米系のRF半導体メーカーを中心に12年ごろから検討がスタートし、14年に量産ラインへの導入が行われた。現在、他のフィルターメーカーでも採用に向けた検討作業が複数進んでいる。
「3H」のもと、顧客サポートの体制拡充
こうした米系企業との取引が本格化したこともあり、同社は11年にアリゾナ州フェニックス、14年にシンガポールに現地法人を設立。営業と顧客サポートを中心に手がけている。日々技術的なミーティングを中心に顧客サポートを行っているのが、李浩充氏だ。同氏は日本とフェニックス、アジアを行き来する多忙な日々を送る。
同氏も「ここ5年で大手顧客と深いレベルで技術的なミーティングを行えるようになった」と明かす。特に最近は、大手後工程装置メーカーのキャッチコピーを参考に、「Haru(貼る)」「Hagasu(剥がす)」「Hakobu(運ぶ)」の「3H」を自社のコア技術と位置づけ、一連のプロセスをトータルで提案できる体制づくりに尽力。具体的には、永久レジストなどを展開する大手材料メーカーと協業し、顧客サポートを行う体制づくりに努めているという。
ファンアウトパッケージ、ならびにRFフィルター分野での採用以降、ラミネーターをはじめとする同社装置は従来の開発ライン用途を飛び越え、量産ラインにも採用されるようになってきた。顧客要請に今後も応じていけば、自ずと事業規模も拡大していくことになるが、李社長はただ単純に会社規模を大きくすることに慎重だ。少数精鋭をベースとしたものづくり力を維持しながら、最適な会社規模を追求していくという、難しいミッションをやり遂げていかなければならない。
半導体製造装置業界は大手企業による経営統合やM&Aなどが相次ぎ、中小の装置メーカーにとって生き残りに向けたサバイバルに直面している。TTSが体現する事業体制は、今後の中小装置メーカーにとって、1つのモデルケースといえるかもしれない。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳