若者たちは、湾仔(ワンチャイ)駅から車内に乗り込むと、大きな威勢のいい声で叫び始めた。何を言っていたかは分からなかったが、香港警察へ抗議の意思を示す内容だったと思われる。車内にいた一部の乗客からは拍手する音も聞こえた。

また、香港島にある砲台山(Fortress Hill)駅近くを歩いていると、「Democracy for Hong Kong」や「五大訴求」などと書かれた黒い垂れ幕を見つけた。

日常生活では安全な香港だが、香港人としての強いアイデンティティや危機感といったものはあらゆる場所で感じられた。

筆者が帰国した次の日あたりから、エアポートエクスプレスの運行が妨害されるなど、これまでに見られるように事態はエスカレートしていった。現在、暴力の連鎖は止まっているとされるが、香港情勢で怖いのは、こういった“治安のギャップ”かも知れない。

来年もビジネスリスクは続く

イランやイラクでも反政府デモが続いているが、既に犠牲者はそれぞれ数百人以上というレベルで、我々日本人が両国に対して治安がいいと思うことはあまりない。

だが、香港についてはもともとの治安が良いことから、衝突や破壊行為がいったん終息すると、もう大丈夫だろうと思い、出張や駐在、現地工場の操業などを日常のサイクルに戻してしまう場合も少なくないだろう。

香港の若者たちの不満は依然として解消していないし、香港政府や北京も強硬な態度を貫いたままである。来年以降も同様の情勢が続くことから、いつまた大規模な衝突や破壊行為が発生しても不思議ではない。

「衝突や破壊行為が収まったから香港に来たが、再び激しくなり、電車がバスの運行が大幅に遅れていて、無事に日本に帰れるか分からない!」といった事態も十分に考えられる。

また、衝突や破壊行為の現場近くにいたということで、暴力に巻き込まれたり、警察に逮捕されたりすることもあり得る。

香港への出張や駐在、ビジネス展開を考えるにあたっては、市民の動き、そして、いつどこでどのような政治イベントや集会が予定されているかを事前にチェックすることが重要だろう。

和田 大樹