この記事の読みどころ

銀行、商社ともに株式市場から極めて厳しい評価を受けています。

銀行は2016年3月期の決算発表で、マイナス金利の影響と株価下落による手数料収入の減少をどう克服するのか示す必要があります。メガバンク、地銀を問わず大再編による集約が進むかもしれません。

商社は、過去の資源投資の膿を出すことが完了するか、その後の成長戦略をしっかり描けるのかが問われます。総合商社の専門化、商社の集約も考えられます。

株式市場から厳しい評価を下されている銀行株、商社株

銀行株、商社株は配当利回りが3~4%と市場平均より高く、利回り志向の個人投資家には人気のあるセクターですが、配当利回りの高さは株価の低さの裏返しでもあります。

株価を1株あたり純資産で除した株価純資産倍率(PBR)はいずれも1倍を下回っており、伊藤忠商事を除くと0.5~0.6倍という極めて低い水準です。東証1部の平均が1.1倍ありますので、かなり厳しく評価されています。

各社の外国人持ち株比率は30%前後、もしくはそれ以上ありますから、それだけ様々な株主に経営が監視されてきたはずです。しかし、それにもかかわらず株価はなかなか評価を上げられていません。その背景を考えることが、今度の決算を評価する視座を与えてくれそうです。

日本の銀行株のパフォーマンスは際立って悪い

メガバンクの株価パフォーマンスを見ておきましょう。2015年12月末から2016年4月末までの株価は、三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)が▲31%、三井住友フィナンシャルグループ(8316)が▲26%、みずほフィナンシャルグループ(8411)が▲31%となり、同期間のTOPIXの下落率▲13%を大きく下回る値動きでした。

ちなみに米国の主要銀行は1桁後半の下落に留まっています。世界的に銀行株には受難の局面ではありますが、それにしても日本の銀行の株価は厳しいと言わざるを得ません。

銀行株受難の背景とは

日本の銀行は、集めた預金を全額貸出に回せないという構造的課題を抱えています。貸出に充当できない部分は国債などの有価証券投資に回ります。

こうした環境でゼロ金利、そしてマイナス金利政策が採用されました。金利が低下すると、既に持っている国債の価格は上昇するので余裕ができるのですが、これから国債を投資するには利回りが出にくいという問題が生まれます。

しかし、国債を買うのを減らして貸出に回そうとすると、低金利での貸出競争に陥りがちです。貸出残高が伸びても、新規融資の金利が低下し、しかも過去の貸出が期日を迎え、貸出す時にも金利は低下します。こうして利息収入はじりじりとプレッシャーを受けるのです。

そこで銀行は、投資商品などを主にリテール向けに販売し、手数料を稼ぐような体制を構築してきました。ただし、昨今のように株式市場が下落すると、投資商品の販売額や手数料収入が減少してしまいます。

もう1つ大事なポイントはクレジットコスト、つまり貸し倒れに対する引き当てや損失です。これまでは景気の拡大で倒産が減少してきました。しかし、急速な円高やシャープなどに代表される大手企業の経営不振の影響は、下請け企業を中心に、関連する中小企業に今後マイナスの影響を及ぼす可能性があります。

これまではクレジットコストが下がることをいわば当然のこととして貸出金利を下げてきましたが、倒産が増える時にはクレジットコストが収益を圧迫する可能性もあるのです。

銀行決算でチェックするべきポイントとは

このように、現在の経営環境では、保有国債の含み益が増えるとはいえ、貸出利息収入の伸び悩み、新規国債投資の利回り低下、手数料収入の減少、クレジットコスト上昇の心配などが株価に厳しい評価を与えていると言えそうです。

これらが来たる銀行決算の注目ポイントです。さらに日銀のマイナス金利政策導入後、その影響を公式に語る機会になりますのでチェックをしておきたいと思います。

とはいえ、既にメガバンクの業績が減益基調になると新聞等で報じられています。収入の面とクレジットコストの面で多くを期待できない以上、コストの削減が喫緊の課題になります。メガバンクでは連結子会社すべてを対象に聖域なき統合と人員の整理・再配置が求められそうです。IT投資の合理化も待ったなしです。これを貫徹できるかが、メガバンクの最終決戦を左右しそうです。

一方、地銀については従来以上の速度で再編が進むかがポイントです。規模拡大によるコスト体質の改善余地が非常に大きいと思われるため、どこか1つのグループが先陣を切ると再編が加速するでしょう。

商社株は「ポスト脱資源」が求められる

商社の2016年3月期決算は、伊藤忠商事(8001)が純利益で総合商社トップに立つというエポックメイキングな決算になりそうです。伊藤忠商事は中国のCITICの持ち分利益を取り込むという戦略を進めていますが、他の大手商社は過去の資源投資の後始末に追われたというのが最近の経緯でした。

しかし今後について言えば、大手商社はいずれも資源投資を抑制し、投資先のリスクが小さいものに対して分散して投資を進めると宣言しています。よって、「脱資源」の動きが加速しそうです。足元で資源価格が持ち直しているのがなんとも皮肉に見えてしまいます。

とはいえ、今後の各社の事業ポートフォリオが資本コストを上回るリターンを着実に稼ぎ出していけるのか、株式市場の不安は続くかもしれません。

「ポスト脱資源」として「専門商社化」か「商社再編」といういずれかの動きが出てくることも想定しておいたほうが良さそうです。特に社長交代をする三菱商事がどう伊藤忠商事に対して巻き返しに出るのか注目されます。

1【2016年5月1日 投信1編集部】

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LIMO編集部