パワー半導体大手の富士電機㈱は、先ごろ開催した2019年度第2四半期決算説明会で、初めてパワー半導体の300mmウエハーによる量産について言及した。「自動車、産業ともに大口径化が必須と考えており、R&Dの準備を進めている」と述べた一方で、「大口径化で性能ばらつきが大きいことが課題で、技術的な難しさを克服するには2~3年かかる」とコメントし、21~22年ごろの量産適用を視野に入れていることを示唆した。

海外のライバルは300mm化を加速

 自動車の電動化や世界的な省エネ意識の高まりで、電力を制御するパワー半導体の需要は今後も右肩上がりが続くと予測されている。生産効率が高い300mmウエハーでの量産については、すでに独インフィニオンがドレスデン工場で量産化を実現しているほか、同社はオーストリアのフィラッハに16億ユーロを投じて新工場を建設中で、21年から量産を開始する予定となっている。

 また、ティア1の独ボッシュもドレスデンに建設した新工場で、21年末から300mmウエハーによる量産を開始する予定。電子化が進む車載システム向けにASICやMEMS、パワー半導体などを生産する計画だ。

 さらに、米オン・セミコンダクターがグローバルファウンドリーズ(GF)から米ニューヨーク州のイーストフィッシュキル工場を4.3億ドルで買収することに合意。20年からGFがオンセミ向けに製造を開始するが、段階的にオンセミが自社製造の比率を拡大し、22年末にはオンセミが工場を運営するようになる。オンセミはパワーMOSFETやIGBT、アナログ半導体などの製造を増やしていく考えだ。

 このように、世界的にパワー半導体を300mmウエハーで生産する流れが加速しているが、日本の大手である富士電機や三菱電機、ロームや東芝は300mm化に関して具体的な動きをまだ見せていない。

19年度は下方修正も、中期計画は維持

 富士電機は、為替のマイナス影響に加え、産業用の需要が減少しているため、19年度の電子デバイス事業(半導体+ディスク媒体)の業績見通しを、当初の売上高1503億円から1360億円、営業利益を175億円から116億円にそれぞれ引き下げた。このうち半導体は当初1250億円を見込んでいたが、10%程度減少する見込みという。

 第2四半期累計(4~9月)の電子デバイス事業は、売上高が前年同期比8%減の658億円、営業利益が同30%減の60億円だった。半導体は自動車向けが増加したが、国内と中国を中心に産業向けが減少した。ディスク媒体もPC用、データセンター用ともに減少した。半導体の用途別売上構成比は、産業モジュール46%(前年同期は50%)、産業ディスクリート20%(同23%)、自動車34%(同27%)だった。

 前工程の稼働率は85%程度で、車載用が堅調な8インチ(200mm)はほぼフル稼働。自動車用IGBTは計画より若干少ないが、一部で量産計画の前倒しや台数増が見込める顧客があるため、中期計画は変更しない。

 ちなみに、中期計画は19~23年度を対象としており、全社ベースで23年度に売上高1兆円(18年度比9%増)、営業利益800億円(同33%増)を目指している。このうち、電子デバイス事業では、自動車用パワー半導体を中心に強化し、23年度に売上高2000億円(同46%増)、営業利益220億円(同41%増)を狙っている。

 一方、パワー半導体の受注は19年1~3月期を底に回復しており、10~12月期は産業用こそ横ばいだが、自動車向けは増える。20年1~3月期は自動車の新規顧客へ納入が始まるため、さらに増加する見通しで、これに伴って工場稼働率も9割程度まで上昇する見込みだという。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏